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《そして深夜》


「で?」
ことのあらましを全て話した薫に対しての白ノ宮先輩の言葉だった。
「いや、いまので全てですけど!?」
「ああそうかい。じゃ、」
「なんでバットかまえるの…!?」
ごく当たり前というように、すっと
バットを持ち上げた白ノ宮先輩。ずっと聞きたいことがひとつある。
「その……白ノ宮先輩……、バットはどうしたのですか……?」
「ん?あぁなんだ、琴藁の餓鬼も居たのか」
え、いままで気づかれなかったんですか。まじですか。そして質問はスルーなんですか。
「最初からいた」
ぼそ、と白ノ宮先輩の隣にいた男の子が言った。美化委員部隊副隊長、東山、とかいう苗字だった気がする。
「そうか?まぁいいや、琴藁、お前もこれに関わってるっつーわけ?」
白ノ宮先輩は、片手で頭をかき、片手で持っている血がついてる金属バットで、血だまりの床を指しながら言った。
「………………これを引き起こした生物の第一発見者です。」
でもこの惨劇は私のせいではありません。
「ほぉ?」
だからそんな風に笑わないでくださいほんとまじで怖いですってば。
「白ノ宮隊長、この現状については後ほど改めてお話ししますので、いまは……」
「わかってるっつーの。あとそんなお固く過ごしてんじゃねーぞ辻尾」
白ノ宮先輩は、かしこまっていた辻尾先輩の背中をバン、と思いっきり叩いた。この人は、年下からかしこまられるのを嫌う人だった。私たちを通り抜け、白ノ宮先輩は血だまりのなかを普通に歩く。くるり、とあたりを見回し、未だに吊りあがり続けている口を、きゅっと結んだ。
一呼吸。
「ナオレ」
ふわっと、空気が揺れる感覚。すると、血がぐにゃりと動き始める。ゆらゆら揺れながら血は、いつの間にか白ノ宮先輩が手にしていた試験管の中に吸い込まれていった。はっと気づくと、いつの間にか窓も廊下のひびも綺麗に直っていた。
美化委員部隊隊長の特殊能力ーー
『物の再生』
「いつ見てもすごいや……」
「そりぁ……唯一無二、隊長特権の能力だからねぇ。あれもう魔法の域だよね。」
各委員部隊隊長に代々引き継がれる〝特殊能力〟。それは確かに魔法のようなものだった。〝戦闘の範囲外〟によるその能力は、委員部隊がそれらしくしっかりと役割を果たせるために、代表者のみに渡されるいわば〝証〟である。例外はない。が、生徒会のメンバー、生徒会長、副会長、会計、書記にはその能力があるらしい。かつて辻尾先輩に聞いてみたところ、その能力というのはあまり日常では使い物にならないものらしく、使用するのもごく稀だという。
「こんなもんだろ」
白ノ宮先輩は血が集まった試験管に蓋をして、白衣のポケットに突っ込んだ。
「サンプル?」
「そうだなぁ、また交換条件でミィに売るか」
どんな交換条件を突きつけるのだろう。
「さて、つぎは健全なる校舎を汚した原因を取り締まろうと思うのだが……」
「だからそれはあの生物のせいだよ!?」
「ふむ、じゃあその生物を取り逃がした貴様らの処罰を」
「し、白ノ宮先輩、不可抗力です……」
白ノ宮先輩は、部隊隊長引き継ぎの舞台の挨拶で、美化委員部隊隊長になったからには、周りの環境を汚すものは処罰する、と堂々宣言したらしい。以降、彼女を見かけた全ての人が、「なんか武器もって歩いてる。」と謎の畏怖を抱くことになる。ついでに武器は剣だったり斧だったり包丁(嘘じゃないまじで)だったり。
「時間、もう、遅い。」
ぼそ、と隊長の近くにいた副隊長の東山なんとかが呟いた。
「あ?いま何時だ?永瀬」
あれ、東山じゃなかった?予想しなかった勘違いにちょっとぱちくりしていると、薫が「東山永瀬。本名」と耳打ちしてきた。
おお、なんか一回聞いたら忘れそうもない名前なのに忘れてたぞ。あれかな、へんてこりんな名前の度合いが最上級にあるどっかの双子がいるせいで珍しさに欠けたのかな。
「もう次の日なった。一時……」
「げぇ。まじか。睡眠時間削れたな」
頭をぐしゃぐしゃとかいて、ふぁ、と欠伸をひとつした。
「しゃーない、今日は帰ろうか。お前らを見逃してやる。が、そこの市庵の餓鬼、おまえブラックリストだからな?毎度毎度校舎を汚しやがってあぁ?次やったら」
白ノ宮先輩は、持っていたバットを両手で掴み、

ばきっ

と折った。
「。」
「覚悟しとけよ?」
そう言って、白ノ宮先輩(と東山永瀬先輩)はここから退場した。
「……もうやだあのひと……」
「自業自得、てやつでもあるがな」
「菊寺、それは、まぁ、その、わかってはいるけれども!」
疲れたように、薫は廊下に座り込んだ。
「……一時、か。仕方ないな。琴藁おまえ早く寮に帰れ。薫、貴様も罰はまた明日だ。」
「……っす。」
「辻尾先輩は?」
ちら、と生徒会室を覗くと、生徒会長の机の上には山のように資料がのっていた。
「あれはまだ締め切りが先のやつだ。俺も今日は帰る。」
はぁ、とため息をついて辻尾先輩は生徒会室へと戻り、自身の鞄を持ってきて、生徒会室の電気を消してドアに鍵をかけた。
「大丈夫か?琴藁。今日は……あー、もう日付変わったんだっけか。まぁ、疲れてるだろうから少しでも休めよ」
ええ、言われなくても全力で休みますとも。
「えーちゃんえーちゃん女子寮まで送ろっか?」
薫が廊下に座り込んだまま、上目遣いでこちらをじーと見ながらいった。
「送ろっか、てほぼ同じ道のりでしょう……しかも女子寮のほうが近いし……」
「そうだね、じゃあ送ろう!」
すると薫は、ぱっと急に立ち上がると、私の手をとってなぜか走り出した。
「はっ……はしるのっ……!?」
「深夜の校舎を思いっきり走り回る!いいねなんか楽しいよね!ドキドキだね!!」
さっきまでのおとなしさはどこいきやがったこのやろう。
「というか、さっきの騒動で忘れてたけど!あんた!今日の恨み忘れてないからね!」
「まぁまぁ!たのしかったでしょけ結構!」
「んなわけあるかぁ!」
ああもう、ほんとにこいつといるとろくなことにならない!思えばこいつが今日へんてこりんな鬼ごっこを企画しなければ、私はあの獣と会うこともなかったのではないか?
「全部薫が元凶じゃん!!?」
「あっはっはー!」
こいつ確信犯……!?
イライラが積もりに積もり、けれども疲れでそれを晴らせず、結局女子寮まで手を繋がれたまま走らされ、着いたら着いたで、めっっちゃいい笑顔で手を振られて。ああ私なんであいつと幼馴染やってんだろ、と思いふと空を見上げると、幾千もの星がキラキラと輝いていて。
はぁ、とため息をひとつ、こぼした。