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《再生のハナシ》
どの生物も、心臓を直撃されなければ致命傷は自己再生され、だいたいは元の姿に戻る。が、自己再生を幾度となく繰り返すと、その機能はいかれてきて、無理やりの再生を続けているうちにへんな再生を始める。元の姿とは思えない姿と成り果てる、らしい。
唸り声をあげてるそれは、じぃ、とこちらを見てる。虎ほどの大きさ。目はギラギラと光を放ち、なぜか、それから目が離せなかった。化け物、、?違うこれは、ただの獣だ。羽が生えてるが、化け物ではない。化け物とは、この程度の生物じゃない。でも、じゃあ、これはなに、、?
「……ちゃ……!えーちゃん!!」
ぱちん、と視界が弾けた感じがした。化け物に焦点を置いていた全神経が、現実に引き戻された。
「か、おる……」
声がかすれた。しばらく、息さえも忘れていたのか。呼吸が少し安定してない。あれ、いま薫の声が聞こえたのは確かなんだけど、、どこだ?
ゆっくりと顔を動かして、周りの確認をしようとした。そして、今自分と薫が、獣を挟んでいる状態だと理解した。あの化け物の向こうが、生徒会室だ。どうしようか、と思って少しだけ足を動かした。ほんの少し、ただそれだけで。
獣はこちらに向かって駆け出した。
「うそ……っ!!?」
「ちょ、バカっ!!」
獣がこちらに駆け出したおかげか、向こうにいる薫の姿が確認できた。とても真っ青であった。ああもう、こっちだっていま焦ってんだから!
地を蹴って、姿勢を低くして、獣にぶつかりに行く。そして、きっと獣は。飛躍し、大きくこちら目掛けて地に降り立とうとしている。いま、地に獣はいない。
走れ。
たん、と足に力を入れる。腕を大きく振り上げ、獣よりも早く動く。獣が、どおん、と後ろで着地した音が聞こえた。おおおおおん、という雄叫び。耳を塞ぎたくなった。かしゃん、と首元にかけてあるヘッドフォンが揺れた。
やばい、きてるきてるきてる……!
「えーちゃん!!」
薫が、生徒会室から少しだけ身を出して手を差し伸べている。それに、手を伸ばす。
ぎゅ、と一瞬だけ力がこもった。
とたん、ぶわ、とすごい力で生徒会室に投げ込まれ、どしん、と尻餅をつく。
「か、薫?!」
「薫!」
辻尾先輩が、なにかを薫に投げた。それを薫は受け取り、構え、駆け出してこちらからは見えなくなった。
「か、たな、、、。え、ええ、あいつ刀であれと争うわけ!!?」
「いまはあいつの人離れした戦闘法に期待するしかないんだ!」
ばしゃっ!と、なにかやな音がした。そして、また雄叫び。どしんどしん、と暴れているのか強い振動が続いた。が、急に止まった。
「な、な、ななに?」
「やったのか……?」
静寂のなかで果たしてなにがとうなったのか、全くわからない状況で混乱していた。ちら、と隣をみると、先輩は扉の向こうを睨み続け、きっとなにかあったらすぐに逃げるためか、私の隣を離れなかった。なにかあったとき。それはあのバカがやられた場合ということだろうか。
「……えっと、ごめん菊寺、ちょっと手伝って。えーと、奴は逃げたんだけども」
薫が、辻尾先輩の名前を呼んだ。先ほどまで厳しい顔をしていた先輩は、すぅ、と顔をいつも通りにさせてすぐに声のする方へ行ってしまった。私ものろのろと立ち上がり、とりあえず扉の方へと向かった。扉から少しだけ顔を出して、外の状況を確認する。
赤。
それは、赤。きっとあの獣の血だろうか。
「どこを刺したの?」
「え、あちょえーちゃんだめみちゃだめだって!」
薫のいまの姿に少しぎょっとしつつも質問した私に、薫はとても拒絶反応をみせた。なんだ、ここにこられたら迷惑なのか。
「えーちゃん生徒会室にいて!」
「……悪い、琴藁、中でちょっと待っててくれ」
……ふたりして子ども扱いですか。確かに無力ではあったけれども。これぐらいの血だまりぐらいで私がおののくとでも思ってるんですか。ムカムカと腹の底から来たものを抑えて、生徒会室に戻った。そして、あれはないものかと探し始めた。あまら生徒会室をあさりまくるのはよくないが、とりあえずいまはあれが必要なのだから仕方ない。あれは意外と早く見つかった。そして、再び生徒会室を出るというか、さきほどとは違い完全に生徒会室を出た。
「ってえーちゃんだから……!」
ちょっと本気に怒り出しやがった奴に向かって、私はそれを思いっきり投げ飛ばした。それ、はふわり、と薫の顔に着地した。
「ちょ、なに……タオル?」
「それで血ぃ拭けよってこと。」
びし!と薫の顔と服を指差した。いわゆる返り血でそれらは汚れていて、見ていて結構見苦しいのだ。
「……わかったよもう、これぐらいどうてことない、でしょう?」
「幼馴染み公言してるなら言われなくても気づけよ」
そういいながら、割れた窓ガラスが特に血で濡れていることから、獣が外へ逃げていったのが分かった。指を切らないようにして、窓の外へ顔を出す。ひゅううう、と冷たい風が吹き、あたりは静かだ。
「刺したところは首筋、本当は一気に心臓つこうとしたけど、ここ狭いしね。とりあえず、首を」
薫はタオルで顔を拭きながら言った。先輩が私と薫を交互にゆっくり見回してから、己の疑問を口にした。
「あれはやはり、再生機能が劣化した生物なのか?」
「それにしては、ただの荒っぽい動物に見えたけど……。先輩、見えました?あれ、羽生えてましたよ。こう、、ペガサスみたいな。」
ペガサスにしては凶暴だけどね。廊下は血だらけでなく、ひび割れや切り傷、そして割れた窓ガラスが散らばっていた。
「いや、羽というか……あ!そうだえーちゃん、やつに魅入っちゃってたでしょう!!やめてよねあれ!結構焦ったんだから!」
「みい、、?私が?」
急に話の話題にのった自分の名前に、きょとん、として答えると、薫はああもう!と大層なため息をついた。
「やつと見つめ合ってたでしょ?で、目が離せなかった。ほら魅入ってる!あれだって、僕が声かけなければ君ずっとあのままでやられてたかもだよ!」
「みつめあってって……。まぁ助けてくれたのはありがとうだけど…」
「え」
薫は心外そうに目を見開き、さっきまで説教口調だった口はぽかんと開いたまま動かない。…ふ、フリース?
「あー………琴藁にお礼を言われたのが嬉しかったんじゃないか?」
先輩がおーい、と薫の顔のすぐ近くで手を振るが、薫の反応は一切なかった。
「そんなまさか…………あんたまさか、私がお礼を言うのが珍しいとでも言うんじゃないでしょうねぇ?」
「…………は!そんなことはないさ!ただ久しぶりにお礼を聞いたから!いつも素直にいってくれればいいのに!」
やべぇ殴りてぇ。
「それはお前……。入学してからお前が琴藁にやったことといえば面倒ごとに巻き込むだけだったからだろうが。どこにお礼を言われる筋合いが貴様にある?」
言いたいことを全て先輩が語ってくれた。ありがたい。とてもありがたい。
「そうだっけ?まぁいいや。あれ?なんの話だっけ。」
完全にこちらの話をスルーした。なんだかこいつに助けられたのがとても癪に思えてきた。けどそれよりも、いまは話題をもとに戻すほうがいいので何も言わないでおく。いまは。
「あれが再生機能劣化物体か、て話。」
「ああ。どうだろ、まだ初期段階、てとこじゃないかな?これから色々再生していくと、醜くなってくよきっと。あと、えーちゃん、君が羽だと思ってたあれは、たぶん皮膚だ。」
……ひふ?
そう思って、自分の腕をぷに、とつまんでみた。
「そうそれそれ。皮膚。再生したら、皮膚が必要以上に出来上がっちゃって、そこは肉も骨もないもんだからこう、風になびく感じの皮膚が出来上がったーてかんじかな。」
「……えぐいな……」
ぼそ、と先輩がいった。同感。そう考えると、確かにあの獣はやはり化け物だったのだ。
「てか逃がしてよかったの?寮のほうにいっちゃあだめじゃん?」
「それなら、風紀委員会部隊のやつに臨時警備を張らせた。」
さすがは生徒会長、仕事が早かった。風紀委員会。学校の秩序と安全、健全さを守るためにあるあの委員会部隊は、戦闘スキルが高い隊員が多い。そのひとたちに警備を任せるのなら、きっと大丈夫だろう。
「まぁ、すぐにあれを見つけて始末したいところだけど、一回逃げられたんだから学園長に報告だよねぇ」
「ああ、いますぐにまとめて学園長に送る。」
「じゃあ、私たちがいま気にする問題は、ここを誰が片付けるのかってことぐらい?」
そう言うと、二人は急に黙った。黙ってすぐに顔が真っ青になった。
「あ、あああ、そうだ、、こんだけ騒いだんだ、、、くる、、きちゃう、、!」
「……やむおえん。今回ばかりは我慢するしか……」
私は、ふたりがなにについて話してるのかよく分からなかった。
ふたりは一体なんのことを言っているのだ?やつがくる?だれかこの汚い廊下をきれいにしてくれるひとがくるのか?だとしたら嬉しいはずでは………………ん?きれいに?
そこで、やっと私の脳みそは彼らに追いついた。
「わ、わたし帰る……!」
「えーちゃんずるい!僕もかえる!」
「落ち着けお前ら、、確かに、奴らは、、あれだが、、!」
そう言う先輩も、きっといますぐにここから立ち去りたいはずだ。きっと、やつらー、彼女たちは、すぐに。
カツン。
足音が響いた。ひとり、ふたり……。ふたり分の、足音だ。
あ、きちゃった、、。私の心は絶望で埋め尽くされた。先輩のほうを見ると、先輩はすでに生徒会長モードに切り替わり、相手をしっかりと見ていた。仕方がない、と私もゆっくりと足音がするほうに顔を向ける。
そこには、白衣を着た髪の長い女のひとと、緑のジャンパーを着た黒髪の男のひとが立っていた。ただそれだけで、ぶるりと全身が震えた。威圧。
「よぉ、餓鬼。まずはなにも聞かねぇ。」
女のひとが、ニィ、と口元を思いっきり吊り上げて、目を細めた。
「何か、言いたいことはあるかぁ?ん?」
美化委員部隊隊長、白ノ宮劉江。
右手には、何故か金属バットがあった。とてもきれいな赤色で、染まっていた。