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《平穏訪れず》

市庵薫、第二学年a組。無委員会。
生徒会に顔見知りが多いからという理由だけで、用もないのに常に、学園の中枢とも呼べる生徒会に入り浸る末恐ろしいやつだ。暇あれば、それを持て余さないために周りを巻き込み事を起こし生徒会長に怒られる。暇でなければ無理やり暇を作り上げ、やはり周りを巻き込んで事を起こし、生徒会長に激怒される。生粋のトラブルメーカー、奴は事を起こさせる天才である。今まで起こさせた事の例、優勝クラスには高機能エアコンをつけると勝手に決めて、クラス対抗ドッチボールを開催する。
電気工学部科の奴らと結託してロケットを飛ばすついでに三時間自動稼働可能小型ロケットを校内中に飛ばしまくる。図書室の本を全て利用しドミノ倒しをする。などなど。そのほとんどは全て彼の思い通りに事を成した。彼の名を知らない奴はこの校内にはきっといない。そんな奴と、俗に言う幼馴染、まぁ、高校で何年ぶりかの再会だったわけだが、とにかく親しい私。悪気あるのかないのか、奴はことあるごとに私を事に巻き込んで、えーちゃんえーちゃんあっはっはっと私の名前を連呼してなぜか笑う。そのせいで、校内で私はえーちゃんとして知れ渡っている。くそったれ。

高校入学から今の今までの彼の迷惑な功績を思い出していたら、急にふ、と体が重くなった感覚があった。そして、今の今まで自分が寝ていたことを知る。というより気絶か。むくり、と起き上がると、ここが生徒会室だと分かった。しばらくぼけーとしていると、視界の端にちらっと奇妙なものが写った気がしたが気のせいだろう。
「えーちゃんえーちゃんえーちゃん!!ちょー無視しないでー!」
あーあーあー聞こえない。
「えーちゃああああん!五歳の時家のすぐ反対側の道で迷子になって泣いてたえーちゃああん」
「うわああああ!!最悪最悪!このばかおる!!」
ばしー!と近くにあったクッションで視界の端に、なぜか転がっていた薫を攻撃した。
「げふん!」
そして、ノックアウト。
「はぁ、はぁ…。なんでんなとこにいんのよ薫、、」
「縛られてんのー。せいとかいちょーさまにー」
生徒会長。
「辻尾先輩に?なるほど、絶賛罰されてるんだ。ざまぁ。」
「いい顔だね、えーちゃん、、!」
べつにそんなことないさいいやそんなことあるさ僕はえーちゃんの幼馴染なんだから約9年間の空白があるくせにそんな障害物なんて軽く飛び越えるほど僕らの愛は強いいてててていたいいたいえーちゃんいたい
なんて話していたら、ガラッと扉が開いた。そして、1人の男が入ってきた。
「琴藁、起きたか。体に異常はないか?」
「あ、はい、大丈夫です…!すみませんここをお借りさせてもらっちゃって、、辻尾先輩、ありがとうございます」
生徒会長、辻尾先輩は、口元をほんの少しだが緩めて、ほんとうに微妙に微笑んだ。これはそこらのひとじゃ読み取れない表情の動きだ。これを読み取れるのは、生徒会本部のひとか、一応、辻尾先輩の友人のこの薫か、あとは薫繋がりでよく厄介になる私、ぐらいだろう。
「ほんとに済まなかった、これが迷惑をかけて。」
「これ?え、これっておれのことかナツ?まじかこれかーこれこれこれあっははなんか面白い」
「ほんとに済まなかった」
ごんっと鈍い音がした。薫が頭を抑えて沈黙した。こっえ。
「さすがに今回のは度がすぎると思うが、とりあえず言いたいことはあるか?不燃ゴミ」
「不燃ゴミ!?」
「燃えてくれない面倒なやつですね」
「えーちゃんー!!」
さすがに目の前の二人の扱いがここまでひどいと、さすがの薫も若干傷ついたようにしゅん、となった。しかし私だってそれなりにこいつの幼馴染なのだ。こいつはきっとあと三秒もしないうちに。
「まぁ!ぶっちゃけ今回もただのひまつぶしなんだけどね!」
一秒は保とうぜ薫くん。
足蹴りしておいた。まぁかわされるわけだけど。
「暇つぶしで、おまえは無委員会のひとが委員会のやつらにおいかけられる状況をつくったのか?」
「えーちゃんは委員会所属してなくても異常な身体能力持ってんじゃん!だから大丈夫かなって。」
そのよくわからんとこで発揮される信頼度はなに。

今回こいつが仕出かした暇つぶし。それは、各委員会部隊に「琴藁苑蘭を時間内に確保できたら委員会配給料金を上げる」という、それが始まるまで私さえも内容を一切知らなかったゲームだった。つまり鬼ごっこ。特別ルールで「各委員会ごとに参加できるのは二人まで」があったとしても。ちょうサバイバル鬼ごっこだった。一対数十人ほどの。ついでにそれに気づいたのはこの辻尾先輩が必死こいて私を探し出してくれたおかげである。事情を聞いて極秘隠れ場所に隠れようとするが時すでに遅し、ゲームはスタートし、途端に委員会のやつらが襲ってきたのだ。そのときに辻尾先輩とはぐれ、以後先輩のことなど気にする余地は殊更なかった。なにせ戦闘能力etcを習得している委員会に、ただ少しばかりひと並み外れた身体能力を持つのみの私が勝てるわけがない。
「えーちゃん、えーちゃんはねぇ、自分を舐めすぎだよ。ただのひと並み外れた身体能力のひとがふつう十数階から飛び降りして生きてる?」
こやつ心を…。
「えーちゃん単純だから、考えることまるわかりなんだよね。きっと無我夢中で走り続けてたら屋上にきゃって、そこでも逃げ道がなくなったから一階に戻ったんでしょう?」
「単純で悪かったね!でも人間五階ぐらいからなら飛び降りできるしょう!心臓直撃じゃないから死にやしないし」
「心臓直撃して死ななくても足がおれちゃったり頭打ったり、最悪全身体を再生しなくちゃなんないって!ふつうの人間は五階からおりるのは危険です!!」
「え、いや。でもふつうじゃない委員会部隊はめっちゃ飛ぶじゃん飛んでんじゃん。」
「飛ぶというより跳ぶなんだけどね」
辻尾先輩がなぜか苦笑いをしながら口を挟んだ。
「高い飛躍だよ、あれは。琴藁みたいに、その、、重力を完全無視したりはできない」
「いや、無視してるだなんて……」
「えーちゃん、がんばれば壁とか走れるんじゃない?」
私はなんなんだこのやろう。走れるかボケ。
「でもさ、あんまり無茶はしないほうがいいよ。君、戦闘に関してはマイナスだからね」
「「どの口がいうか!!」」
ふたりに睨み怒鳴られ、おお、と薫は少し狼狽えた。というか、いつの間にか縛られていた紐を解いていた。マジシャンかこいつ。
「再度謝る、琴藁。石ころが迷惑をかけて」
「石ころ!?」
「石ころに失礼かもです先輩。」
「えーちゃん………」
会話もほとほどにして、私は寮に帰宅、先輩は仕事に、薫は罰として先輩の手伝いをするので生徒会室に残った。帰り際、助けを求める目をした石ころがいたが完全無視だ。
「あんまりだっ!?」
何か聞こえた気がするが、ありがとうございました、と言いながら扉を閉める。
外をみると、夕焼けが広がってー、なく、もう真っ暗だった。つまり夜だった。つまり私の気絶時間は長かったと思われる。本当に情けない。
はぁ、とため息をついて、さて寮へ帰ろうと歩き出す。と。
「うん?」
真っ暗闇な窓の外に、ぽつん、と光が見えた。一瞬建物の明かりかと思ったが、そういえばこの先には建物などないな、とすぐ気付いた。この先にあるのは学園の庭園だ。
誰か、歩いてるのだろうか?いやまさか、こんな時間に?と思った。寮のルールは厳しくないというかむしろ自由すぎて何時までに寮にいろなんてものはないが、たいてい皆この時間は寮にいる。委員会の仕事とかで残る人もいるが。でも、外に?もしくは肝試ししに来たやつ?そんな風に頭を巡らしていると、ぼんやりと浮かんでいた明かりが、すぅー、とうごしだした。心なしか、その明かりが大きくなっているように思えた。そしてだんだん、その明かりが一つでなく二つにも見えてきてー。
そこで、理解した。明かりでない。あれは……。

《これ》は目だ……!!

瞬間、さっと身を翻し、窓から一気に離れる。それと同時に、がしゃああん、と窓ガラスも割れる。だん、という振動、なにかの唸り声。私は、呆然と、それ、と対峙する。それは4本足で、毛は漆黒に染まり、牙がとても鋭かった。目がふたつあり、耳が生えていた。羽らしきものが生えてる、、、?

「ば、、けもの、、?」

今日は、厄日だ。