全ては心臓からできている。
心臓を直接壊さない限り、その心臓が動き続ける限り、動き続ける。
それは、この化け物にも同じなのだ。
か弱い力でなんとか起き上がり、再び目の前の《奴》と対峙する。
なにかうめき声をあげながら、その化け物はうごめいていた。もとはもっと生物らしき形をしていたのに、この数分の戦闘のおかげで、うではもがれ、足は両方持って行かれたが、無理やりの再生のせいでなんか五本にもなっていて。まぁなんとも醜い姿。
はやく、はやく、心臓を壊さないとー。
こっちが壊される前に壊さないと。
片足を地につけ、片手をゆっくりと持ち上げる。なんらかの奇跡を求めて。このどうしようもないくらい嫌に決められてしまった、自身の死を、なくす奇跡を。
「.............なぁんて、起きないかぁ」
ごおっと音がした。ほらもう、奴はもう目の前でー、、。
「あ、あー、、、バイバイ、、」
「分かってるよね?必要なのはー……」

一瞬の静寂。

がぶり。



→→→→→→→→→→→→→→0→1

《逃走劇》


まだ未熟、成熟寸前、思春期、青春。私たちのこの時期は、それらで詰まっている、らしい。
ひゅうっと風が吹いた。十数階にも及ぶ我が校の屋上からの眺めは最高だった。下さえ見なければ、またはうしろを振り返らなければ。
「なんで……だし……」
息は切れてない。私の体力はそれなりに自慢できる程だと思っている。ただいまこの状況はどう考えても頭を悩ませるものだ。悩むのは苦手だ。頭が疲れる。
「琴藁苑蘭、みーつっけた!」
そう明るい声が弾んだ。
「もう追いついたわけっ!?」
「美化委員部隊、メンバー4、滝宮梓、いっきまーす!!」
じゃら、と出してきたのは疑わずとも鎖である。何故だそれでどうするつもりだこの女!!
「ああもうこの……えっと……野郎が!」
そう言って、私はとりあえず、屋上のフェンスを乗り越えた。
「……はへ?」
そこで、大量の鎖をスタンバイさせていた滝宮なんとかさんははてなマークを頭に浮かせた。なになに、なにしてんの?風に。
「こうするんだっつーの!」
そして、私は足を踏み出した。

つまりスカイダイビング。
つまりバンジージャンプ。
まぁ飛び降りともいう。

「あっほがああああああ!」
「え、えええええええええー!?」
滝宮なんとかの叫び声は間も無く遠くなっていき、びゅううう、と風の抵抗で髪が雑にたなびく。そして。
とん、と、着陸する。
数十秒。
「はぁっ、はぁっ、あー、これでしばらくは、、っ」
安心、と自分に言い聞かせようとした瞬間、その気配にほぼ反射的に体を反らし、それを避ける。
ばんっ!
それは校舎の窓を爽快に割った。
銃弾であった。
「つぁー……!!?」
ばっとあたりを見回すと、すぐ近くの木の上から、銃口が覗いていた。
「放送委員部隊、メンバー6、遠藤紀河。目標発見」
先ほどの滝宮と比べて、とても静かで低い、明らかに油断1ミクロもしてない奴だ。やばーい。
「逃走っ!」
「攻撃開始」
がちゃ、と、後ろで戦闘開始の合図がなった。これ、1秒後に弾一つ飛んでくるかも。
ばばばばばばん!
1秒後ではあったが、弾一つではなかった。
「乱射ーーー!!?」
これもどうにかこうにか全て避けー、まぁ、擦り傷程度なら右足首と左手首に出来たけど。私が予想したあの銃の射程範囲を抜けて、ある障害物の中に身を隠した。校舎にたてかけてある三メートルほどの木の板の束。ここに隠れたのは、位置的に相手に見られていないはずだ。そのはずだ、が、、。
「隠れるのは得意じゃないみたいだな」
声はすぐ近くで聞こえた。うっそ。
「チェックメイト」
そう言って、その声の主はガタン、と木の板を引き倒した。
「…………へぇ」
そこには。扉があった。
私は、扉の内側で座り込んでいた。立て続けに2人相手など、限界はまだだが一次的休息を要求したいものだった。
「でも分かってるよね?この扉も、この銃にかかればすぐにー」
ガチャン
「開くんだよ」
ばばばばばばん!!
先ほどよりもものすごい音だったので、思わず耳につけていたヘッドフォンを手で押さえた。
扉はー。
「……うそ……?」
遠藤なんとか(この状況で苗字だけでも耳に入れて認識できたのはすごいと思う)の声が、初めて、わずかだが揺れた。向こう側の扉がどうなっているか、見なくともわかる。むしろ、銃で打たれた場合どうなるかを知っていたからこそ、ここに逃げ込んだ。ついでにここにこの扉があったのは知っていたが、そこで遠距離で襲われたのは偶然。なんとも運が良かったのだろうか。扉は特殊ゲート、ただの銃、だけでなく、結構破壊力のある爆弾でさえも傷一つつけられない仕様になっている。なぜこの微妙な場所にそんな超特殊扉があるのかは不明だ。私にこれを教えてくれた奴も、「だれか気分でやったんじゃない?」と適当だった。そんな適当な奴が今この状況の元凶なのだが。あ、ちょっとイライラしてきた。
「------,-」
暗証番号を言い、空間に手を差し出す。ウィン、という機械音とともに、ウィンドウが空中に開かれる。最初に開かれるのはシンプルに時間のみが映し出されていて、そこからさらに暗証番号を入力したり、指紋認証したりとかで自分専用ウィンドウに入れる。とりあえず、いま確認したいのは時間だった。
午後の2時半過ぎ。
「ちょっとまて。2時間もうち走り続けてたの……」
はぁ、とため息をついたが、しかし長くここにもいるわけにもいかない。あの遠藤という奴なら、きっともう回り道でこちらに向かっている。早くここからも出なくてはならない。よいしょ、と立ち上がり、さて右左どちらにいこうかなぁと思ったら、どちらにも行けなかった。
どちらにも、少女がいた。
「……うわあああ!?」
「見つけた」
「苑蘭ごめんねっ」
その少女たちは、顔がそっくりだった。ついでに顔なじみである。存在感を操る双子、波浪流雨と琉晴だ。名前が結構いかれてて本人たちもそれなりにいっちゃってるやつだ。だからこそこうして、一応友人にあたるうちに対して2人とも刀を抜いている。
「あんたたちもかよ……!」
「だって」
「そりぁ参加するでしょー!」
そう言いながら、同時に2人とも地面を蹴った。さて、この扉を開けて外に出る時間はなし。正面は壁、両端は愉快な双子ちゃん。なら行くべき道はー。
正面、だ。
「とりぁ!」
地をけり、飛躍、身体をねじり、足を壁につける、そして斜めに飛ぶように、再び壁を蹴り上げる。
とん、と。
双子の片割れの後ろにたどり着いた。
「やられた」
「あー!流雨、追って追って!!」
後ろで双子の会話が聞こえるが、気にせずダッシュする。以前、彼女らの戦いを見たことがあるが、正直こいつらと戦うのは勘弁、と心底思った。思ったのに……。
「……ん?てか待って、、ちょっと待っー!!」
この先は確か、あの遠藤とかいうやつがさっきの扉の先に行こうとした場合に通る唯一の一本道じゃあなかろうか?なぁんて1秒未満で頭をフル回転させて思っていたら、銃弾がやはり飛んできた。
「う、お、う、、」
それはギリギリ、ほんとにギリギリで、目の前で避けた。
「今度こそチェックメイト、か」
ですか!!?
「誰かいる」
「あーー!!こらそこの無愛想!苑蘭はこっちが捕まえるの!」
後ろから双子もきた。これ、詰んだわね……。
「はい、掲示委員部隊、副長波浪琉晴!」
「同じく波浪流雨」
「てことだから遠慮しちゃってー!」
手を高々と上げて、元気よく挨拶する琉晴。それに合わせて、はっきりとした声ではあるが、低く琉晴のような明るさは微塵もない流雨。この二人は、校内でもそれなりに名が知れ渡っている。
「波浪双子……。厄介なやつと鉢合わせか。悪いけど、こっちが先に見つけたんでね」
銃口、相変わらずこっち向いてる。
「順番なんてナイセンス!苑蘭は私たちの友人!だから捕まえるの!」
その感覚ずれすぎてる。最悪。こいつらにはしばらく授業ノートみせてやんないことにした。
「ちょっと!勝手に話さないで!私は捕まる気0だから!」
「なんで?」
なんでって……!!?
「えー、、と、、!ほら、猫はリードつけたくない的な、きりんは首が短くならない的な、、!」
「よくわかんないけど、つまり当たり前だろうが!て言いたいんだよねっ?」
琉晴正解。だから刀しまおうか!
「じゃあ、覚悟ね!」
「双子もろとも吹っ飛ばす」
チャキン、ガチャン、とやな音が同時に響く。通常この場合、銃弾を避けてからの刀を避ける、ほうがいいのだろう。だが。無理だ。なぜなら琉晴は刀を投げたから。流雨は刀を構えてるから。弾丸はもうでてる。弾丸と刀を避けられても、そこから次にくるのは流雨の刀、または遠藤の才能にもよるが、体術。
捕まる。どちらかに、確実に。冗談でしょう、、?
理解するとともに、足はもう使い物にならないほど、地を蹴るどころか、動かすことさえもできなくなった。最悪最悪最悪、全部全部全部あの野郎のせいだ。あの野郎あの野郎あの野郎。

「ざっけんな薫の馬鹿たれがああああああ!」

やけくそに、そう叫んだ。そのときに、カチン、と、何かが聞こえた。
それは、時計の針が、動く音に似ていた気がする。
とたん、びゅっと風が吹き荒れる。ほんの一瞬それに目を閉じ、次に目を開けたときには、刀は地面に落ちていたし、銃弾は止まっていた。私の脳みその手前で。
「……!!」
目の前には、ニンマリと笑う奴がいた。
「さて、放送委員部隊の遠藤くん、掲示委員部隊の波浪ちゃんたち。」
そいつは、パァン、と手を叩いた。
「ゲームオーバー!時間切れだよ。よって、勝利はえーちゃん、君だ!おめでとう。」
殴りたかった。てか殴っといた。
ついでに殴った後、わたしは情けないことに気絶した。