【pattern2・橙ノ谷萌黄】


「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぜ!」

「……それが仕事してるひとに言う台詞だとしたらずいぶんとまあ脳みそ糖分に支配されてるんじゃない、白雪」

《雛翼》本部にある自分のデスクに座り、あたしは半眼で入ってきた白雪を睨めつける。どこまでも能天気なこのはぐれものはにこにこ笑いながらステップでも踏むかのような動きでこちらに寄ってきて、デスクのとなりに立った。その頭にかぶったとんがり帽子もいまでは白雪の阿保さ加減を強調しているようにしかみえない。

「そんなこといわないでさー、萌黄ちゃんーお菓子ちょうだい!」
「あなたが仕事するならね」

間髪入れずに答えれば、唇を尖らせてブーイングがとんできた。だからそういう仕草が子どもっぽいって言ってるんだってば。すこしは《雛翼》らしく、世界の書き手として頑張れないものか。…いや、彼女はだからこそのはぐれもの、なんだっけ。彼女の目的はあたしとはちがうのだ。人間らしいねがいのために、世界を駆ける。

「えーじゃあこんどの世渡りでちゃんとやるからさー」
「…そこまでしてお菓子欲しいの?」

くるくるくる、指先でシャープペンシルをまわす。この動作も慣れてしまった。《雛翼》になった当初は効率の良さなんて考えてる暇もなかったし、何に対しても余裕なんてなかったのかもしれない。
もう遠いむかしの話。

「……ほら、」

引き出しから取り出したものを白雪に向かってぽいっと投げた。きれいな放物線を描きとんでいったそれは、「おっと、っと」あっちへこっちへふらふらしていた白雪の手にぱしりとおさまった。

「あ、キャラメルだ」
「それあげる。そのかわり、明日までの書類ぜったい忘れないで」
「げ……」

きっといつものごとく忘れていたのだろう、白雪は不意をつかれたらしく心底いやそうな顔になって、けれどもその指の中にあるキャラメルのおかげか嬉しそうな口もとのままで、なんとも言いがたい表情である。

「ひととの約束は守るものでしょ」
「……萌黄ちゃんはぜったいひとをまとめるために生まれてきたよね」
「なんか言った?」
「いえべつになんでもないよいえーい」