夢のかけらは潮騒の音
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 ガーネットの双眸が目前で爛々と光っていました。幾度となく研磨してとがらせた、するどいきらめき。そこに沈んで見えるのは何でしょう。侮蔑と憐憫と、それから色濃い憎悪に隠れた──羨望?
「──張り合いがないわ」
 彼女がなにか呟きました。長い前髪で区切られた視界でぼんやりその姿を見つめると、彼女は忌々しげに顔をしかめて、それからにっこり微笑みます。綺麗な笑顔。あどけなさと鋭利さを同時に孕んだ、奇跡みたいな微笑でした。
「痛くないの?」
 細い指が、芸術品のような装飾が施された短剣をくるくる曲芸みたいにあやつっています。宙を舞う短剣、その磨きあげられた刃に赤い雫がまとわりついているのが見えました。
 私は右の腕を押さえつけていた逆の手をそっと外します。彼女に切りつけられた右腕。ひらいた手のひらを染める、赤い色。……なんとなく、自分がいつも呼ばれている名を思い出しました。手のひらを飾るそれは現実味がなく、この世から切りとられたように鮮烈な印象を私に寄越します。けれど同時に夢みたいで、霞のように不確かな、
「馬鹿みたい」
 彼女が顎をほんの少し引くと、肩より上で切りそろえた髪が赤いフードからこぼれて、胸もとできれいに結んだリボンにかかりました。私はそれをじっと見つめていました。知っていたから。こうしてぼんやりしていれば、彼女はすぐに興味を失って、どこかに去っていくってこと。
 案の定彼女は緩慢な反応しかしない私に痺れを切らしたのか、ふんと鼻を鳴らしました。そうしてつんと顔を背けるとドレスの裾を翻し駆け出して、すぐに見えなくなりました。遠ざかる、かろやかな足音。
「………」
 残された私は緩やかに赤色のあふれる傷口を見やります。夢のようにふわふわした、いまいち自覚しにくいこの光景。
 痛くないのかと問われれば、勿論そんなもの──知らないに、決まっていました。