その温もりを御大切に
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運命。あらかじめ定められた未来。それは誰が決めるのでしょう。名前も知らないかみさまとやら、でしょうか。私は少し考えて、わからない、と答えました。すると彼は少し呆れたような顔で笑いました。くっくっ、と喉にかかるような笑い方で。その声はいやに耳に残って、いくら咳をしても消えませんでした。
夏の日でした。なまぬるい風が吹いて、窓下のプールサイドで誰かがはしゃいでいる甲高い声が遠く、聞こえていました。きっと【赤頭巾】や【スリープキラー】の声でしょう。私はなんとなくそう思いながら、同じ部屋の中にいる彼の姿を観察するようにじっと見ていました。薄い暗がりにたたずむその男の姿を、見つめていました。
柘榴の色をしたふたつの眼球は開け放たれた窓のそとへ向けられて、時折思い出したようにまばたきをしました。長いまつ毛が眼球をふちどるようにけぶり、色の抜けたような白髪がふわりと風に揺れて、異国の香のような、深く微かに刺激のある香りが私のもとへ届きます。
この時の私は運命なんて知らなかったし、そもそも信じてすらいませんでした。私の運命とも呼べる彼との出逢いは、もうすぐそこまでせまっていたというのに。