累月の果てより来たる
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 ぼたぼたととめどなく滴り落ちる雫を止めようと、胸元に手のひらを押しつけた。ちょうど鎖骨の真ん中、やや下あたりからあふれる血液はそれでも止まる気配がない。痛みは既にどこか遠くに追いやられていた。頭の奥の方で鳴り止まない鼓動の音がやかましい。喉骨がぎしぎし軋んで、うまく声が発せない。
 視線の先にはひとりの男がいた。縦に引き延ばしたように妙に高い背丈、灰のように真白い髪。ゆるりとまとった着流しと黒い足袋に黒い下駄、それから柘榴の色をしたマフラーと、おんなじ色をしたふたつの両眼。
 亡霊のようにそこに立つ男は、手に一振りの刀を提げていた。青白い刃が暗がりのなかでわずかに光を放っている。その光は目にしただけで背筋が粟立つような、内臓がひやりとこごえるような、そんなおそろしさを有していた。
「──ふん」
 男はその刀を赤いまなこでもってしげしげと観察していたが、やがて満足げに鼻を鳴らした。整った顔である。その美しさは氷のように尖り、あたたかさとは無縁に見えた。
「これほどとはな。辺境の刀鍛冶の仕事とは思えぬが──いや、だからこそ、か。全く、面白いものよ」
 男の声はよく響いた。彼は俯いたままくつくつと喉を鳴らす。骨の浮いた、細い喉元。その笑い方は、彼の外見に反して老成した雰囲気を纏わせる。
「───なんで、」
 胸元をおさえうずくまる少年は、そんな男を呆然と見上げてうめいた。そのうめき声に、男が意外そうに眉をあげて振り返る。そして少年の感情にゆらめく双眸を見て───にやりと、笑みを深くした。
「俺が憎いか?」
 ならば殺せ。
 その目がそうささやく。少年自身の本能もまた、同じことを告げていた。けれど胸元の灼熱がそれを許さない。その熱さは、痛みは、少年からすべての衝動を奪っていた。男の足元に転がるひとつの骸の存在すら、その熱に呑み込まれる。言葉を返そうとして、その熱に咳き込んだ。動けず言葉も返せない少年を冷たくも熱い眼光で見下して、男は果たして笑ったままだった。
「なにも今この場で、とは言っていないだろうよ」
 言って、男は手を差し伸べる。揺らめく視界のなか、その手のひらは確かに人間のかたちをしていた。座り込んだ少年はその手を見つめて、そして───