とある

現代を生きる魔術師たちは、一般人と同じように暮らしている。ただそこに、魔術という非科学的な要素が入るだけ。


朝御飯は大事なんてことは、きっと小学生でも知っている。それでも朝御飯を食べない人がいるのは、睡眠時間が惜しいからだろうなぁ。
そんな風に思いながら、一二三は皿に目玉焼きをのせた。この一二三という少女について。東京ではそれなりに名が知られている、小学校から大学までのエスカレート式学校に通う高等部三年。俗に言うネット依存者にして、じつに今日で五十一徹目である。それでも少女は今日もとりわけ気分も体調も害することなく朝御飯を作るのであった。
「おっはよーう!ひっふー!いやぁ毎朝毎朝本当よくやるねぇ!お姉さんは嬉しいよう!」
「おはよー佳苗、レポート提出終わったの?」
「あっはっは!......期限15分前に提出したさ。あーやばいなんか笑えてくる...」
一二三の姉、佳苗。とりわけ有名というわけでもない大学に通う21歳。
やけにテンションがおかしいときは、単位がかかったレポート提出が近い日である。普段のテンションは、至って普通である。ただし顔は美形。
「乙」
「かれ、をつけろっつーの」
そう話す間に、食パンと目玉焼き、コンソメスープが2人分食卓に並んだ。
「いただきまーす!」
「もぐもぐ」
「佳苗、いただきますぐらい言おうよ...」
食事の時の会話は、世間話や学校の話、そして最近起きた事件の話など。ただし、この食卓に上がることのできる事件には条件がある。魔術師が関わっている事件。ただそれだけの、結構限られる条件である。
「てなわけで、新たな事件はないわけだよ佳苗」
「平和でいいわぁ魔術師。一番最近起きた事件が、なんだっけ、ほら」
「マジックショーと見せかけて本当に魔術を使っちゃってたってやつじゃない?」
「そうそれ。本当に空を飛んで、がちもんの炎だして。でもあれ、ありきたりなやつだったから、全然儲けなかったってね」
こんな感じ。
「ひっふーは、いま春休みだっけ?」
「ちょうど昨日からだよん、久しぶりにどっか行くかいお姉様?」
「おーいいじゃんか。行こう。ご飯食べたらすぐ行こう」
「洗濯物は?」
「む、手伝うから早く終わらせて早く出よう。」
「了解でーす、と」

かくしてこの姉妹は、3時間後にとある通行人の面を借りることになる。

「ちょっま......!?」
「そっちから仕掛けてきて待ったはなしだよおにーさーん」
二人はいま一人の若者を見下ろしていた。ついでに、明らかに二人よりも年上。
「まぁよくもこのご時世、同族を襲おうなんて考えるねぇ」
「メリットはないのにね?」
「メリット、そうだね、そうそちらのメリットなんて知ったこっちゃないけど、やられたからにはその理由も知っとかなくてはね。で、どうしてうちらを襲った?」
事の始まりはわずか五分前。買い物をしていて二人が気まぐれで細道に入っていき、これは何か出そうだね!と言っていたところ、魔術師が現れた。魔術師同士、気配というのは分かるもので、それのお陰で姉妹はいきなり魔術をぶっ放してきた野郎を逆に弱・フルボッコにしたのだった。そしていまに至る。
「いやぁ、その、...........」
「言うつもりはないみたいだね?」
佳苗がそう言うと、すっと右手を挙げた。それで若者はぶるりと震え上がった。つい先ほど、それによって発動した佳苗の魔術により今の足が出来上がったのだから。今の足とは、あらぬ方向に曲がっていた。
「じゃあー.....」
口元をゆっくりと吊り上げて、佳苗は魅惑的な笑みを浮かべて、
「私達にとって、不利益にさえならないことをしたんだから、さ?」
指をー....
「男見せようよぉね?」
そして、男はあっさりと口を割ったのだった。

「んまい」
夜ご飯は、佳苗の好きなたらこスパゲッティだった。一二三の手作り。
「にしても、なんだろうね?野郎が言ってた〝魔力吸収〟て」
「意味はそのまんまだろうけどさ、そんなの出来るのかな。あの屑はそれを考えもせずに魔力を奪おうとしてたんでしょう?とりあえずのせばいいと思ってたのかな?」
あまりに軽率かつ馬鹿げている行動に呆れ、二人はその歩けない状態の奴をとりあえず魔術師を取り締まる魔術教会付近に放っといたのだった。
「んー、まぁ気になるし、他の用もあるから、明日にでも〝情報屋〟に聞いてくるよ」
佳苗がそう言って、スパゲッティの最後の一口を口に入れた。
「明日会うんだ。大変ねぇ情報屋も」
「利用出来るものは利用しないと。情報に乗り遅れるのは不利益にしかならないでしょ。全ては我が倉白家利益のため、てこと。」
「好きだねぇ、佳苗。利益って言葉。」
くす、と佳苗は静かに笑い、その整っている顔を更に美しく見せた。
「利益あってこその人生でしょ」

至って普通の生活に、魔術が関わって、そうして魔術師の生活が出来上がる。魔術師とは、ごく一般人にただ魔力があるだけの、それだけの存在である。