溢れでるのはただの愛
この世界では、1年が終わる日に盛大なお祭りがあるらしい。ちょうど視察にきた今日が、その日であるようだ。
「はぁー、すっごいね、これ!」
隣で蓮月が楽しそうに声を上げる。こういうお祭りというか、大勢でわいわいと騒ぐものが好きな性質だ。人見知りで身近な人以外には極端に冷たいやつだが、人混みや大勢で騒ぐのが嫌いなわけではない。いわく、大勢の中でも1人で楽しめるならよし、らしい。
普段はどういう景色なのかはわからないが、今日この日は、広場にたくさんのお店が開かれている。綺麗な宝石やアクセサリー、可愛い服や置物、そしていい匂いのするご飯。お酒らしきものを売っている出店もあり、先程見事に留哉が釣られた。ついていったライラは、各世界で買うお酒は一本、と決めているものの毎回アルコール濃度の高いものを購入していく留哉になるべく濃度が低いものを買わせる使命が課せられている。たぶん無理、と彼女は笑顔で言った。
「おおっみてルノグ、ほら!」
手を引かれて、蓮月が指を指す方へと視線を向けると、そこにはなにやら大きなオブジェがあった。いわゆる女神…だろうか、布を纏った女性が胸の位置で手を組み、目をつぶって祈りを捧げているような像、に果たしてこれは許されるのかというぐらいに飾りものがたくさんつけられていた。キラキラと光る電球、リボン、レースをたくさんつけられた女神。他の世界ではあまりみたことがない。
「あぁ、あっちではなんか演奏してる!歌も歌ってるねぇ!いいねぇこれ!」
「あや、お嬢ちゃん余所者かい?」
きゃっきゃと蓮月がはしゃいでいると、近くで飴を売っていたおばあちゃんが話しかけてきた。
とたん蓮月は人見知りモードになる。1人でいる時や世界機関内ではこの場合、とても冷淡な風になるのだが、それが各世界では何故だか本当の人見知りらしく身近な人の背に隠れるということをする。それが可愛いとおもごほん。
「おやぁ、人見知りかい?」
「えぇ、まぁ…すみません。」
「いいのよ、いいの。ただここらへんは余所者でも気にせずフレンドリーな人が多いからねぇ、嫌ならちゃんと嫌と言わないと、とことん巻き込まれるからねぇ」
「とても元気なせか…町ですね。」
「そうよぉ!そこが自慢なのさぁ!」
持っていきな!と言ってもらった飴を貰い、歩き出す。長い棒の先に、蓮月は白の、俺のは青の鳥の形の飴が付いている。先程まで興奮して動き回っていた蓮月は、いまは大人しく俺の隣を歩きながらそれをくるくると回して遊んでいる。
「新しい年がやってくるってときにさ、」
「うん?」
「世界の命運をかけた視察をしに来た人が紛れ込んでるって、だれも思わないよねぇ。」
心底楽しそうに蓮月は言った。パクリ、と白い鳥の飴を加えた蓮月は、しばらくもぐもぐと飴を堪能したのち、あんまい、と言った。彼女の好みの甘さではなかったのか、やや顔を顰めた。ハナハナにお土産あげようかな、と彼女は呟く。そういえば奴はかなりの甘党であったなと思い出す。それにしても、別に、どうでもいいのだが。
こういうふとした時にふと彼女は奴の名前を口にする。いや、別に、本当にどうでもいいのだが。
そのとき、わぁと人々が歓声をあげた。
なんだろう、と蓮月と顔を見合わせる。
「やば、カウントダウン、もう?」
「これから!行こう!」
近くの子どもたちが、人が一段と集まっている広場へと走っていく。
「なるほど、年が終わるのか。」
ぺろり、と蓮月が棒の先を舐めた。いやまて、甘いと文句を言っていた飴をもう食べ終えたのか。早い。
「ルノグ」
「…あ?なに?」
「こういう時ね、〝今年もよろしくお願いします〟ていうんだって。」
「へぇ、それは丁寧だな。」
カウントダウンが始まったらしく、人々が声を揃えて数字を数え始める。
じゅーう、という声が響く。
「ルノグ、これからも永久によろしくね。」
「………言うの早くないか…いや、え、うん…よろしく。」
動揺した。とても動揺した。普段から不意打ちで思ったことをすぐにいう蓮月ではあるが、これはまた…。
ごー、という声が響く。なんだか先程よりも声が大きい気がする。そういうものなのか。
「この世界さ、どっちかな。」
「どうだろうな…いまのところ、別に存在していても問題はなさそうだ。」
「まぁ、まだこれからだよねぇ。ルノ
グ、視察ついでに楽しんでこ。」
にやりと笑う蓮月は、ここはもう十分ということか、人混みから離れていく。それに俺もついていく。たしかに、そろそろ留哉とライラと合流した方が良さそうだ。
「あけましておめでとーう!」
人々のそういう声があちこちから聞こえる。なんだろうそれは。とりあえず、やはりこの日は人々にとってめでたいものであるようだ。ちらり、と遠くに見える先程の女神のオブジェに目を向ける。当たり前だが、先程と全く同じで目を閉じ手を組み、祈りを捧げている。そういえば…この世界に、神はいるのか。いたとしたら厄介である。もし世界が不要と判断され、壊すことになった際、必ず神となにかしら衝突する。当たり前だ、神が作った、もしくは神が見守っている世界をこちらは壊そうとしているのだから。
「蓮月」
「はぁーい?」
前を歩く蓮月を呼ぶ。くるん、とこちらを振り返る蓮月はにこにこと子どものように笑っていてとても可愛い。
「こちらこそ、これからも永久によろしくな。」
「!」
嬉しそうに彼女はパァっと笑顔をさらに輝かせる。
「もちろん!よろしく!」
よろしく、これから先、彼女の笑顔がずっと隣にありますように。