昨日と変わらず明日も変わらず
さてさて今日も平和な日が始まりまりましたぜっと。
長い黒髪をポニーテールにして、いつも通りミニスカフリルロリを着て、鏡の前でくるんと一回転、よしどこも異常なしだ!最後に頬を叩いてにっと笑い、いってきまーす!と誰もいないのに叫んで部屋を出る。本日は快晴降水確率0パーセント、つまりは太陽テカテカサンサンの日である。エデンは一応人工的に季節が存在していて、いまは夏だった。つまりあちぃ。これ、バテねぇかなぁと思ったのは、自分に対してだけではなく幼馴染みの少女のことだった。彼女の今のあれでも、マシになったものだ。昔はこの人工的季節にさえよく体調を左右された。それでいて彼女はギリギリまで自身の体調に気づかないので、いつもばたりと倒れるまで行くのだ。それに彼女は
「……んの無視すんじゃねぇよ女装野郎っ!」
とてつもない殺気とともにタックルが来た。うげぇ。
「なにすんだよてめぇ!……てなんだ、お前か」
脇腹を抑えながら振り返ると、仁王立ちの少女がいた。脱色した長いストレートの黒髪の少女。口はきつく結ばれていて、目はつり上がっていた。こちらを見下ろす顔は、明らかに、なぜだか、怒っている。
「わたしがなんっっっかい呼びかけたと思ってるのあんた」
「久しぶりだぜぇ矢萩、おまえがこっちくるなんてめずらしぃー!」
「話し聞けこの女装野郎がっ!!」
矢萩。医務室育ちであるが、いまは完全克服したためにここを卒業し、以来特別な事情がなければ決して医務室エリアに立ち入ろうとしなかった少女。戦闘員であり、ちょっときみ大丈夫なの?という大怪我をしても医務室を拒絶する。いやいや怪我は治しに来ようよと思う。
「女装野郎聞いてんの!?こっちの話きけよ!!」
「おいおい矢萩!俺の名前はハナハナだぜ!名前で呼んでくれよー」
「……ハナ」
「ハナハナ」
彼女がなにやら別の単語を出してきそうだったので、ここは引けぬと笑顔で制した。
「……めんっっどくさ!!わかったよハナハナ……ああ言いにくい…」
「それで?ほんとになんで矢萩がここに?」
すると矢萩はギロリとこちらをにらんだ。え、俺悪い??
「定期検査!!!いままでずっとサボってたのに!!」
「いやサボってたからじゃねぇかそれ!?」
そこまでここが嫌か!
「そうよ、それだけでもわたしの気分はただ下がりなのに、朝っぱらからあんたみつけて久しぶりだし声かけようと思ってかけたらガン無視でしばらく声かけ続けてもおまえの思考どっか飛んでるしおかげでわたしの気分は底に着くわねまぁわたしの気分は底なしだけど!!!」
「ごっめん最後よくわからなかったんだけどなぁ!?」
とにかくこの不機嫌さは一応俺にも原因があるらしい。謝っとこうごめんなさい口には出さないけど。
「べっつにいいけどね!あんたの思考は六割蓮月三割自分一割その他残り無だしね!」
「なにその割合!?」
でも言い返せないのは先程名を呼ばれていたときの思考が見事に蓮月であるからなんだよね!!でも残り無てなんだろう……?
「懐かしいじゃねぇか!昔はよく三人で色々とやらかしたもんだぜ!」
「そうね……、〝なんもやれない〟ことをやらかしたわね、あとあんたの話の急な切り替えも懐かしいわね」
なんのことだか。
「それで、今日蓮月は?会ったらちょっと文句をいくつか」
「まじかよなんのだよ。あいつならいまたぶん仕事」
仕事、という言葉で、矢萩の目はぎらりと光った。
「仕事……。わたしよりも軟弱な野郎が仕事……わたしはいまここにいるのに……仕事…………へぇー……?」
ふるふると震えている少女をみて、はっと気づいた。
あ、やっべ。こいつ仕事好きだった。いや仕事好きってより……。
「わたしも戦闘したいいいいいいい!!!」
戦闘狂。
仕事=戦闘という式で成り立ちます。
「さっさとここでてわたしも仕事するそうするいま決めた碧子どこよ!!」
碧子?と首を傾げた。
「誰だそれ」
「あんたが天然ふわふわ少女とかへんてこりんな名付けをしたわたしのパートナーよ!!あいっかわらず名前覚えないわね!?」
「いやぁ、友の友は赤の他人てやつだぜ?」
でも名前は覚えろ、と一瞥されて、その場で矢萩と別れた。全く朝からとんでもない友と会ったものだ。いや満足満足。よしよし、これはなかなか良い一日のスタートである。あとは仕事帰りの蓮月にでも会って、ライラと無意味な話でもして、留哉とルノグと酒を飲みかわそう!きっと素晴らしい一日だろうぜ!
そう決めたら、さっさと蓮月たちが帰ってこれるように援護でもしようかなーと思い、フリルスカートを翻して背中に手を回す。がしゃんと音がするそれは、お気に入りのマシンガン。ニヤリと笑い、よし、と掛け声をあげて颯爽とエデンを走り渡る。
その日、突然現れた出陣予定でない少年が、とある世界の戦闘にてマシンガンをぶっ放した、という話がシグナル全域に伝わった。それにとある少女は手を叩き、とある少女は絶句、少年は頭を抱えて、またある少年は真っ向から説教したとか。
ハナハナは今日も絶好調であった。