だから真夜中は訪れない

さほど無表情、無関心というわけではないと思う。ただやはり、周りの人たちと比べてしまうならば、俺はやはりそういう人なのだろう。それは幼い頃から自覚はあった。
「そうなんだー……?」
ライラは、なぜ急にそんな話をと言いたげな顔で首を傾げた。
「えーと。」
「なんだ?」
「いや、なにを今更と……」
ああ、そう。
「なにかほかにいいたいことでも?」
「手を進めてほしいなぁて…」
いま、ライラと俺は向かい合っていた。間には二つのデスク、ライラのデスクにはひとつのパソコンが独特の機械音を発していた。
「わりぃ、こういうの、どうも苦手でな」
「まぁ、留哉は最終的に終わらせるからいいけどね」
この言い方はつまり、最終的に終わらせない人がいるというわけで、たぶん蓮月のことを言ってるんだろうなぁ。
「そういえば、留哉。」
「なんだ?」
「留哉が元いた世界には、他の世界にはないものはあった?」
唐突かつ不可思議な質問だった。とある世界にあり、とある世界にはない存在など、いくらでもある。あと、彼女が、誰のであれ〝元いた世界〟に関することを口にすることが、なによりも不可思議だった。かつてシグナル全てを恨んだ少女はとうに消え、残ったのはのほほんとした、虫さえ殺さないような顔をして各世界の武器に感動する、ただの少女だった。
「なんだ、急に」
「いや、こないだ久しぶりにあの世界のことを思い出して、」
パソコンから顔を上げずに、あっさりと告げたライラ。〝久しぶりにあの世界のことを思い出して〟と。ああ、彼女はもうやはり既に、シグナル員なのだ。
「あの世界にあって、他の世界にないものが、ないなぁと。」
「……んなことはないだろう。」
「でも、やっぱりあの世界は遅れてた。紛争が毎日だったし、死ぬのは餓死か、殺られるか。武器だって、」
ライラはまたもや顔を上げず、すっと左手だけ上げて、俺の左脇あたりを指差した。
「銃なんて高度な技術、なかったよ。」
「まぁ、そうだな……」
確かに、あの世界は……あっさりと終焉を迎えたものだった。
「お前は、あの世界のことを今どう思っている?」
ちらり、とライラが視線をこちらに向ける。が、すぐにまたパソコンに向かう。カタカタとキーボードを打つ音が響く。
「……あの世界はたぶん、……シグナルが出てこなくても、ダメだったと思う。」
やがて、今までと変わらぬ声でそう、ライラは言った。俺は何も言わなかった。きっと、たぶんだけど、きっと彼女は、なにかを探していたのではないか。あの世界の存在理由を。あの世界が存在していた、存在するべきだった理由を。あの世界は、終わるべきではなかったとー。
でも、結果的に、彼女はいまだシグナルにいる。シグナルであると自覚している。それはつまり、彼女の中で、あの世界の〝存在理由〟がなかったと判断した……という、ことだろうか。そのことを、俺は。
「るーやー?手、動かして。後輩に叱られるってどうなのー?」
不満げに言うライラは、やはり顔を上げずにカタカタとキーボードを打っていて。
「わぁた、やるって……」
彼女の、かつて彼女の全てだった世界へ無頓着さに、俺は。俺は、べつになんとも思わなかった。
そういうことを考えると、やはり俺は無関心なんだろうな、と思った。