空下のピッチカート

面白くない笑い方をするひとだと思った。こんな顔するぐらいなら、無表情のほうがマシだとさえ思った。
それぐらいに、
彼女の初対面の笑みは、
気持ち悪かった。

「、、、ぁ。」
小さい、けれど掠れてなどいない微かな、零れたような声。
彼女の視線の先に、弾けるように輝く星、ほし、ホシ、、、。
青黒い空に、黄色、赤、しろにオレンジ、青に緑、、、。
とある世界に侵入中、誰もいない丘の上。
その時に見た、彼女の顔。表情。
笑ってなどいなかった。あの〝上手な〟笑みなどなかった。
寒い中、頬が薄く紅に染まる、そして白い吐息。黄色い瞳、に涙。
驚いた。だって、笑みでさえ作り物でしかない彼女の表情に、〝泣く〟ことがあるだなんて。
星が。
彼女が、そう言った。呟いた。
星が、見てみたかったのだ、と。
そうだ。シグナルたちにとっての世界、エデンに星が現れるのは、何百年に一度。その百年という年月は、シグナルらにとって長くもない。少なくとも、彼女は星をみたことがあるはずだ。けれど、それでもシグナルで見れる星は、これほどまでに人の心に囁きかけるものであろうか。
「、、、星は、沢山だけど孤独なんだよ。」
「、、、は。」
いつの間にか、彼女はこちらを見ていた。
「、、、どういうこと?」
「一つ一つが、たった一人。」
ふっと、彼女は笑った。本当に、笑った。、、、作り物で、なかった。
果たしてこれは何なのだろう。その笑みは、果たして自分になにをやったのだろう。何も映さないのだろうと思っていた瞳は、キラキラと輝き、潤っていて。それがやけに、暖かくて。
「、、、なんで、いつも〝笑う〟の?」
聞くことなどないと思っていた、疑問というよりは不満、愚痴。
きょとん。その言葉が似合うような、そんな表情だった。仮面をかぶっていた顔が、ころころと変わる。仮面の早変えでもない。自分の言っている意味が、彼女に伝わった。
「なんとなく。外では、笑う。」
ややあって、彼女は答えた。彼女のいう〝外〟とは、医務室の外ということだろうか。
「、、、そっか、今日は、久しぶりに笑っちゃった、、、」
彼女は頬に手を当て、そしてまた、笑う。無邪気。その言葉が、似合うような。
「、、、それ、やめてよ」
「気味悪い?」
「気持ち悪い」
ばっさりいうねぇ、、、と彼女が言った。
「そしたら無表情になるかもよ?」
「その方がまし。笑いたい時に笑ってくれればいいよ。」
そう言った。
「、、、ルノグみたいに?」
名前、知ってたのか。そう思った。「ルノグ、今までずっと無表情だったけど、いま笑ってるね」
笑ってる?
手を顔に当てる。それで、表情がわかるわけない。
「、、、これからも、よろしく」
ぼそりという。恥ずかしながら、きっと自分はそのときからすでに魅入られていた。輝く星のように笑う笑みと、それを観れたことに。彼女が自分の名前を呼んだことに。
蓮月に。
「ん、よろしく。」
すでに、蓮月の顔からは表情と呼べるものはなくなっていた。けれど、それを無表情と呼ぶにはふさわしくないだろう。いや、自分でもなにをどう思っているのか分からないが、少なくとも、俺は。
仮面がついた顔が、もうなくなったと思うことにした。別に、神様なんてものがいたとして、そいつに祈るわけでもないが。
どうかまた、蓮月の弾けるような笑みを見られるのを望んだ。
まぁ、案外早く、蓮月はあっさりとよく笑うようになったのだが。