消えた星と溶けた月

わたしの部屋には、かみさまが住んでいる……なーんて。
冗談、

ではないのだけどね。

お昼ご飯はトマトソースパスタ。かみさまはそれを気に入ったらしかったから。
「いただきます」
わたしに教えてもらった食事の挨拶をして、かみさまは器用にフォークを使いパスタを食べる。かみさまは何も言わない。きみのパスタが美味しいというのは最初に言った、分かりきったことを言うのは面倒だろう?とかみさまはこないだ言ってた。
「ごちそうさま」
終わりの挨拶も忘れない。かみさまは律儀…?であった。
こうやって2人で向かい合っていても、とくに話すことはないので、わたしは自分の爪のマニキュアをぼんやりと見ていた。シンプルに赤一色のそれは、すこし剥がれかけている。残っているのが赤しかないという理由で塗ったわけだが、わたしには赤は似合わないようだ。…あれ、じゃあなんで赤色を持っていて、しかも使っていたのだろう。まぁいいや。
「かみさま、」
頭だけでぐるぐる考えるのにも飽きたので、口を開く。かみさまは何も言わないが、顔はこちらに向けて、首をかしげた。かみさまは見た目はわたしよりもやや背の高い好青年だった。爽やかイケメンで売っている俳優みたいな。
「暇なので、外に出たいです」
かみさまの顔は曇った。まぁ、外は危険だし欲しいものならなんでも出せるからと言って、ここ数日わたしをこの部屋に止めていたのは他でないかみさまなのだから、当たり前の反応である。リアルかみさまは漫画とかアニメとかみたく、リアルにチートだった。で、それはどうでもよくて、暇なのだ。
わたしは立ち上がって、リビングの窓のカーテンを開ける。

黒。

の、背景に、よく見るといろいろなものが浮いている。それは学校でよく見る机だったり、そこらへんの道に生えてる花だったり、根っこが見えてる木だったり、真ん中で折れてて線が繋がってない電柱だったり……、まぁ、日常でよく見るものが多少姿を変えて浮いているのである。
かみさまによると、世界は破壊し尽くしたとか。この部屋以外は。かみさまが、わたしの後ろから手を伸ばしてカーテンを閉めた。
「……かみさまって、人間ぽい表情をするんですね」
苦々しい顔。
かみかまは、ほかのかみさまとゲームをしたらしい。それに、自分の作った世界を賭けていたとかなんとか。その時点で十分にひどいかみさまたちなのだが、この目の前のかみさまを負かしたかみさまは、賭けていた以上に世界を破壊したらしい。
かみさまはすぐに修復作業に入ろうとしたが、手遅れだった。無理やり破壊を食い止めることには成功したが、それは、世界のほんの一部、世界からみたらただのかけらのように小さい空間のみだった。
それが、なぜか、わたしの部屋であった。
大学生になり、一人暮らしをするために買った、アパートの一室。なんと1LDK。なので、この部屋だけで生活しようと思えばできるのだ。電気等はかみさまの力でどうにかなっている。

で、わたしは暇なのだ。

「かみさま、外に出たいです」
「きえるぞ」
かすれて、ちいさな声であった。かみさまはいま、わたしといるために人間の姿をしていて、声帯というものにどうも慣れないらしかった。かみさまは、声をどう出しているのだろう…。
「出てみなくては分かりませんし、かみさまがいるのだから大丈夫な気がします。」
かみさまは首を横にふった。
「…外は、奴の領域。そこまで、ここの力は働いてない。おまえは、きえる」
うむむ。
「じゃあ、消えましょう」
これでもかというぐらい睨まれて、ちょっとよろけた。目で人を殺せるという表現があるが、あれ、本当かもしれない。
「だって、かみさま。わたしだけを救っても意味ないですよ。わたし、ひとり生き残ったって全然やったーじゃないですよ。」
かみさまは睨むことはやめたが、何も言わずじぃ、とこちらを見ていた。わたしも、そらす意味はないので、見つめ返す。先にかみさまが折れた。ゆっくりと床に座り、壁にもたれかかって目を閉じる。
寝たか、逃げたか……その両方か。
が、あきらかに機嫌を損ねているので、いまわたしが有言実行だぜいえいのテンションで外に出ようとしたら、玄関に行く前にかみさまに引っ叩かられるだろう。前も同じことがあったために断言できる。それにしてもかみさま、素手で叩くとは。しかも容赦なく。結構痛かった上に跡がしばらく残ってましたよ、あれ。と、いうわけでわたしは跡が残るほど引っ叩かられるのは遠慮したいので、かみさまを説得するほか外に出る手段はないといえよう。なんとも、面倒。わたしはおとなしく床に座り、机に突っ伏してふて寝することにした。
暇だなぁ、と、心の中で呟いた。