少年が終わった世界にて、

死人の体重は、生前の時と比べて重くなるのだろうか。

そんなことを考えながら、兄を運ぶ。襟を掴んでいるために、両手と腰あたりから下は引きずっている。担ぐことはできない。片手には、アクセサリーであるバットを持っているのだから。

兄が目の前で死んでから、たぶん、30分はたったと思う。

「はぁ……」
疲れた。とても疲れた。一旦休むことにした。そこらへんの公園のベンチに座り、兄はベンチを背もたれに地に座らせた。手のひらを見た。やはりさすがに重かったようだ、手が赤い。
「はぁ…」
今日ため息は何度ついたことか。
今日初めてため息をついたのは、兄が死んだ時だろう。

『約束しようか、可憐』

かつての声が、さきほどから、ため息と同じ数だけ頭で繰り返される。

『僕と可憐は、ここで眠ろう』

いつもの胸焼けしそうなほどにうざったい笑顔が言う。

『可憐が死んだら、僕はここにきみを埋める。かわりに、可憐は僕が死んだら、僕をここに埋めて。土を掘るのが面倒なら、置くだけでもいいよ。』


『そして、生き残った方が死ぬときは、ここで死のう。』


無理難題な話だ。ひとつのお墓を前に、それだけを見つめて、兄なんて見ないで、わずかな花を抱えて、地に座り込んで、わたしはそう思った。
これはまだ世界が生きていた頃の話だ。でもそんなこと、ここでは関係なかった。その頃のわたしたちは、社会が求める道徳的人格者からは遠く離れていた。そんなものは関係なしに、無理難題な話だったのだ。

『約束だよ、可憐』

わたしは何も言わなかった。それを向こうはどうとったか知らない。そして、わたしはその約束を忘れた。その約束を思い出したのは、兄が動かなくなった数秒後だった。兄が、自分とわたしの死について語ったのは、あの日が最初で最後だった。世界が終わっても、兄は自分たちの死については一切なにも語らなかった。よりにもよって、あの兄は。あの死を目の前にしたあの時のわたしにだけ、死について語ったのだ。

それが、理由になったわけではない。けれどなぜか、わたしは、あの場所へと兄を運んでいる。

ーこれは、そう、あの人に会いに行くついでだー

そう思いながら、またため息をつく。
そうして日は暮れていく。
そして、これからのことを考えた。
兄をあそこに放り出して、あの人に世界が実は終わったことを伝えて、そしてその後のことを。

兄がいない、これからのことを。