Valentine そのいち
「先輩」
窓の外の、運動部らの活動をぼけーと見ながら、わたしはなんでもないように。後ろの、これまたぼけーと音楽雑誌を眺める一個年上の男子に語るかける。返事がないのはいつものことである。
「ここ数年のバレインタインでは、オトモダチとチョコを交換し合う現象が起きていることは有名なはなしではあると思いますが、」
ちらりと先輩の方をみるが、その目は雑誌に落とされている。たぶん、雑誌のなにも見てないと思う。ほんとにぼーとしてると思う。
「先輩、チョコほしいですかね?」
ぶっちゃけると、この返答、べつになんでもいいのである。なにがしたいのかというと、まぁ、ちょっとした反撃とでも言おうか。
「……」
「……」
沈黙。むぅ……手強い。
再びグランドを見て、ぼーとしていた。ら。
「……いらない」
ぼそりと聞こえたその無愛想な声に、わたしは、そーですか、とゆっくり答えた。
「……本命じゃないなら、いらない」
……。
いま、窓が開いていて、グランドの運動部らの掛け声が聞こえていたとしたら。それに流されて聞こえなかったであろうその小さな声に、わたしはパクパクと口を動かした。
「わ……」
「……」
「わんもあたいむ!もう一回!リピートリピート!!録音したいです!」
バンバンと机を叩き、鞄を漁って携帯を取り出す。
「……」
一瞬こちらを軽くにらみ、やがて雑誌を置いて席を立った。
「わ、わー待ってくださいー」
慌てて追いかけて、廊下に飛び出す。
「走るな」
「わぁ」
入り口付近にいた先輩に頭を軽く叩かれ、すこし膨れる。
「もー先輩ー先輩ったらー!素直じゃないですねー!」
ぽかぽかと背中を叩きながら、わたしは心の中でにやりにやりと笑う。何故かって、うまくいかない自信しかなかったのに、うまく先輩が素直に答えてくれたのだから。ほんの少しだけど。
「そんなすこーし素直で全く素直じゃない先輩には、愛1パーセントのチョコを差し上げましょう」
「……なんだそれ」
先輩がこちらを見てきたので、わたしは先輩を見上げて、ふふーと笑う。
「ええ、それはですね、先輩。」
ちょービターなチョコレートを、あなただけにあげましょう。