メリーハッピーエンド
この世界に、終わりが来たのだ。
ピシピシと青空にヒビが入り、太陽の日は変わらず眩しい。地割れが起こり、ふわふわと無重力さながら、いろいろなものが浮き始めた。
この世界を終わらせた人はいう。目を見開いて、けれど、口元は笑っていた。
「まさか、お前も自覚者だったとはね」
「……」
崩れる世界を見て、わたしはどうしようもなく帰りたくなった。
帰れる場所は、とうにない。
隣を見ると、いつも弱々しいあいつが、座り込んでいた。ポロポロと溢れる涙。いつも見てた涙。あの日も見た涙。
「ごめん……っほんとにごめん……っぼく……ぼくは……」
掠れたこえで、必死に言葉を紡ごうとする、その姿。もう、みれないと思ってた。その顔を覆っている手が、わたしの手を取り損ねた、そのときの顔を、いまでも覚えている。
「言っとくとだな」
彼は、髪を乱暴にかいて片目をつぶりながら言う。
「この世界は、お前のための世界じゃねぇよ。その弱虫野郎が、お前を救えなかった自分のために作った、お前を救うことができた世界。自分を責めなくていい世界。」
「知ってるよ」
さらっと言って、わたしは、隣のやつの頭を撫でてやる。サラサラした髪だ。
「強い思いで形成される〝夢〟。そこに魅入られたひとたちは、現実世界では行方不明。そのひとたちは、無自覚にも〝夢〟の世界で、現実のように、けれど、強く思ったことは必ず果たされた状態で過ごしている。ここ数年の行方不明者倍増には、そんな理由があったなんてね」
他人事のようにクスクスと笑いながらいう。自分はすでに現実にいないひとだ。でも、この子がわたしを望んで〝夢〟をつくり、そこにわたしが呼び寄せられた。本物のわたしが。きっと、あのときあなたに助けられていたら味わえなかったこの数日間。忘れるつもりはない。
「……はぁ、お前も、はやく成仏でもしとけ。そいつとももうお別れなんだから。」
ああ、やっぱり、目の前の彼はなあんにも分かってない。
すうっと消えかかった奴の手を、ぎゅっと握る。奴ははっとわたしを見て、涙であふれた目でわたしを見つめる。
「大丈夫」
「……っ」
「わたしがいなくても、大丈夫、ね?楽しかったよ、ここの生活も」
無自覚で、わたしが生きている世界を自分で作り出して、わたしが自覚しているときにも、この子は、幸せを感じていた。それはどんなに素敵であり、すこし憎たらしい。だからこそ、わたしも幸せになりたい。あなたが感じたような幸せは、たぶん無理だけれど。ずっと一緒だという、その幸せ。確実なる永遠の幸せを、わたしはきっと感じることが出来るはず。
「待ってるから。そのときまで、きみは生きるの。」
なにかを言いかけて、それが奴の口からは溢れずに、全てが光の粒となる。
「……お前」
先ほどよりも声色が恐ろしく低くなった彼が、じろりとわたしを睨んでいた。
「なにを考えている?」
「……ふふ」
あなたにはわからない。あの子が、わたしがいない世界で生きていけるか否か、そんなの、考えるまでもない、必然的にわかること。だから、さっきの言葉は、わたしのおまじない。
ーわたしがいなくても、大丈夫
そんなわけない。隣にいないってわけではなく、もう住む次元が異なるのだから。
ー楽しかったよ
そう、楽しかったの。ここが、とても。
ー待ってるから。
いくらだって待つ。きみが来るのを、わたしは、ずっと。でもね、
ーそのときまで、きみは生きるの。
でもね、
きみの生きる時間は、きっと、ここで過ごした時間よりも短いでしょ?
「お前はっ」
「ばいばい、夢壊しさん、気をつけて。わたしはあなたを恨むつもりはないけれど、あなたのそれは、恨みをいくらだってかうでしょうね」
ぱりんっと、なにかが割れる音。なにも聞こえない、なにも見えない、白い白い空間で、わたしが望むことはただ一つ。
わたしが飛んでしまったところから、あの子が飛んでくれること。