破滅する前の世界にて、
常にバットを持ち歩く彼女は、とてつもなく美人で、同時にとてつもないひねくれ者だった。そんな彼女、下羽佐可憐とつるむようになった縁といえば、こないだ俺が彼女の見事なアクロバットを受けたことだろうか。バットじゃないのにアクロバット。ごめん別に面白くもないギャグだったわ。ついでに、こいつは校内でもよく有名なやつで、しもうさかれんという少女の名は知っていた。うっかり下総なんて書くのかねぇと思っていたが、全く違う漢字が羅列されていた。そんな下羽佐可憐は隣でものすごいスピードでスマホをタッチしていた。体育館裏にて、程よく太陽に照らされている清々しい午後にあるまじき嫌悪のオーラを放ちながら。ついでに5時間めサポタージュ中。そういや、サボりってのはサポタージュの略なのかね?あってんのさの文字だけだけど。
「なにしてんの?」
「キモい兄に1年分の文句を」
ああ、あの…………出来れば思い出したくない兄か。本当に思い出したくないからこれについてはなにも言わないしなにも聞かないしていうかなたも知らない。こいつに兄なんていたんだへー。
「あの兄のいいところと言えば、美形ってとこだけだと思う」
「ああ、たしかに美形だったなぁ」
第一印象がまさにそれだった。第二印象?はっオボエテナイネ。
「でも美形なのは当たり前。わたしに似たんだから。」
この自己愛主義者め。というか、お前が兄に似たんじゃないのか。
下羽佐可憐の特徴、それは美形とバットとすんなりとでてくる自己愛主義。顔限定だけど、すざましいナルシスト。だからと言って他人を見下すわけではない。なぜなら彼女にとって自分以外は無関心だから。自分と比べてどうとかいう思考を持たない。余計にタチ悪い気がしますがね!
「てかなんであんたがいるわけ」
「サポタージュ」
「サボタージュ?」
うん?
「なにサポタージュて。さの文字をポタージュにでもするの」
「………あぁ、じゃあ、サボりはサボタージュの略なわけか」
「なに1人で納得してんの。略ていうか、日本語風に活用してサボるにしたんでしょう」
「へぇなるほど」
風がふわっと吹いた。あぁ穏やかだなぁ。
「で、サボったからってここにいる理由はないのじゃない?」
「いやいや、下羽佐可憐がここにいるのが見えたからサボったのだよ。」
「いやぁね、なんか用?」
そのいやぁねはきっと、俺がこいつに用があること自体が嫌なんだろうなぁ。だが安心しろ。
「何の用でもねぇ」
「最悪」
ふむ。
「あー、もう、なんでこんな面倒くさいことになるかなぁ!」
彼女は携帯をにらめつけながら、綺麗なふわふわの髪をぐしゃりと撫でる。自己愛主義者のくせにと思ったらその後手ぐしを忘れていなかった。流石です。
「どうしたの。」
「…………放課後兄と出かけることになった。なにこれ、なんでこうなった。」
「デートか」
「殺すよ?」
彼女は足をこちらに向けた。遠慮します。
「もうだめだ、こいつ。全てが手遅れだ。たとえ周りがどう変わったとしても、こいつは絶対に変わらない」
「あぁ、わかるような。てかお前もそういう感じなんだが?」
「当たり前じゃない、なんで周りに流されなくてはいけないのよ。」
その心意義、素晴らしいです。
彼女は携帯をしまい、壁に立てかけておいたバットを手にとってくるんと回す。怖。
「あんた、これからどうするの?」
「あー、5時間めおわったらバック取りに行って帰るわ。」
このサボリ魔が。と彼女は言うが、いや、お前もだろう。てかお前に至ってはすでにバックをお持ちじゃないか。
「じゃあね、喜駕。あんたに不幸が訪れますように。」
「なぜ最後に毒づかれた?」
パタパタと手を振る彼女は、片手にバック、片手にバットで優雅に去っていった。なんだこの光景異様すぎる。教室にまでバットを持ち込み先生に怒られ、これはわたしのアクセリーですアクセリーは禁止されてませんなんて言いやがった彼女は、すでに学校では腫れ物扱いである。それでいても特になにも感じず、自分なりに生きる彼女は今日も自分だけの世界を見ている。きっと、それは本当に世界がどう変わろうと、不変なのだろう。
そう思ったその数日後、思ってもみなかった世界破滅、そのなかを俺は生き延びた。そのまたしばらくあと、偶然にも彼女と再会した。末恐ろしくも、彼女は、世界が破滅しても本当に彼女のままだった。
俺はどうかって?さぁ、それは、また、別の話ってことさ。