廃墟した世界にて、
「久しぶり、可憐」
ニコリと偽善者よろしく様様に穏やかを装って笑う奴を見たわたしは、とくになんとも思わなかった。かれこれ3年ぶりの再会で、というか、わたしはちゃんと目の前で奴が死んだのを見たはずなんだけれども、でも、こいつは正真正銘、奴である。
「…………相変わらずで…」
「他に言うことがあるだろうに」
心の奥深くから幸せそうに穏やかに笑い、タタンッと軽快な足取りでこちらとの距離を詰める。わたしは動かず直立不動。わたしとやつの距離はやがて一メートル未満になり、やつはかなり目の前にいる。相変わらずの二重で、まつ毛が長くて、奴の心と違って目は綺麗だった。
「おかえりとか、ひさしぶりとか、なんなら、なんで生きてんだてめぇでもいいから、なんかオハナシしようよ?」
「別に生死はどーでもいいけれど。なんでわたしの前に現れたの?」
「可憐がいるところが僕の居場所だよ」
思考も変わらずだった。ちょっとくらい正常になってくれたらよかったのに。……悪化してないだけでいいとでも思えばいいのか……?
「ところで、僕はさっきから可憐の名前を呼んでるわけだけど、可憐は僕の名前を呼んでくれないの?」
「前から呼んでなかったじゃない。」
「幼稚園の頃は呼んでくれてたよ」
至近距離での目をばっちんこと合わせながらの会話。どれもこれも全てが相変わらずで、果たしてこの人のなかで3年間はなかったものなのかなと謎である。わたしはそれを言わずにはいられなかったので、端的に述べる。
「相変わらずね」
「可憐も相変わらず、捻くれてて可愛い。そのバットも、相変わらず、でしょ?」
視線を、自らの右手に移す。薄汚れた金属バット。わたしの一番お気に入りのアクセサリー。みんなが指差して、「それ、武器じゃないの」といってくる。ので、二回ぐらい言っておく。このバットは、わたしの一番お気に入りのアクセサリーだ。決して武器ではない。武器などなくても殴るなり蹴るなりで大抵の争いごとは収められる。
「これがなくなったら、わたしではないとわたしは思ってる。」
「可憐が可憐じゃなくなるってこと?……それも見てみたいなぁ」
そこ、顔を輝かせるな軽く頬を染めるなうっとりするな。
「……ところで、これからどうするつもり?」
「可憐についてく」
「あぁ、火のなか水のなか土のなか戦争のなか地獄のなかでもついてきそうだね。」
「地獄はないよ、だって、可憐は地獄にいかないから」
わぁ、前にこんな会話した気がする。あれはなんだっけ、確か、思い出したくはないが少しわたしがナーバスになっていたとき、わたしは地獄に落ちるのかなぁなんてぼやいてたときだっけ。
「可憐は死なないから。可憐を殺そうとする奴は、この世界から消えるべきだ。ね、可憐。わかってるよね?」
「あー……」
「僕以外の人に、傷つけられたら、僕はちょっと怒るからね?」
。
こうもど直球なヤンデレくんがいるとなると、わたしはどうしようもなく手っ取り早く死にたくなる。けど、それもそれで面倒だし、てかわたしは人に指図されずにのんびりゆるゆると生きていくのが定めなわけで。だから、今日もわたしはヤンデレくんを適当にあしらい今日を生きる。
「あー、」
でもやっぱり、死んでなかったし生きてたしなんかブランクはあるけれどもわたしの前に現れたのだがら、一言ぐらい言葉を与えてやるのが礼儀というものだろうか。わたしに礼儀もなにもないのだが、一応、こいつとわたしには切っても切れない縁があるわけで、縁は大事に、とか説教する愉快な仲間以下の知り合いがいるわけだし。
「おはよう、兄」
いつもの朝のように、この3年間、きっと一度も口にしていなかった言葉をあげた。
やつは、それを悟ってか知らずか、また穏やかに笑い、手を伸ばしてこちらの髪を撫でた。
あぁ、それはなんとも。
久しぶりの感覚だった。