朝に胸焼け
「おはよー、トッキー」
その声に、目の前でコーヒーを飲んでいたトッキーはじろりとわたしを睨む。いや、トッキーはこの目つきがデフォルトというべきか。
「予想してあげるよ。砂糖3つ」
トッキーのコーヒーを指差しながらニヤリと笑っていう。言わずもがな馬鹿にしているとも。見た目のわりにかなりの甘党である…いや、甘いのが好き、ではなく、どうやら甘くなくては口にできないらしいトッキーのその性質は、会ったら指摘せずにはいられない。トッキーはわたしを睨むのをやめて、カップに残ったコーヒーを一気に飲み干して席を立つ。わたしはその後ろをてくてくとついていく。
「トッキー、フウマとユウキを見なかったかな?」
「知るか。ついてくるな」
「でも、ねぇトッキー、わたしフウマとユウキ以外で会話ができるのがトッキーと裁判長サマぐらいなんだよ」
大袈裟ではなく本当で、この裁判所にきて間も無く、フウマとユウキとともに少々やらかしたせいで、裁判所内では遠巻きにされている。異物とかなんとか言っているが、裁判所の存在を知らなかった身としては、裁判所や裁判員のほうが随分と異物であるのだけど。その結果として、3人もの新入生の教育係を誰もが拒否したところ、同じく拒否はしているものの、理由が「面倒。」の一言であったトッキーがわたしたちの教育係となった。その期間で、トッキーはわたしたちがやらかしたことに関して「面倒。」という感想しか持ち得ない人であることとか、大抵のことは「面倒。」と答えることとか、自分勝手に行動することが日常であることとかを知った。つまりわたしーわたしたちは、トッキーとは仲良くもないが話せない仲ではない。仲良くなろうとも思わないが、万が一奇跡的にトッキーがこちらの力を必要としたときは、見返りなく力を貸してもいい、というのがわたしたち3人で決めたことだった。
「やぁ、おはよう。トキ、イチカ」
そんなこんなで、ただあてもなくトッキーの後ろをついていったわたしだが、ふらりと裁判長が現れた。トッキーは一度止まり、裁判長をひと睨みしてから再び歩き出す。トッキーは人と会った時、一度睨むのが挨拶なのだろうか。んなわけないか、知ってる。しかしとて、このトッキー、いままでのトッキー観察からすれば、かなり裁判長を嫌っている。そうであるくせに、トッキーが1人でないときは、大抵この裁判長と2人っきりだ。なんなんだ一体。ほんの二割ぐらいの興味がある。
「おはようございます、裁判長」
軽くお辞儀をして、裁判長の隣を通り過ぎる、と。
ぱしんっ。
裁判長がにやにやとした口元はそのまま、目だけかるく見開いた。裁判長の、つい先ほどわたしの腕を掴もうとして、わたしに振り払われたその手が、ゆらりと揺れた。
「なんですか?」
それについてわたしは謝罪をしない。たとえそれが自分の上司であろうが、フウマとユウキ以外の人から触れてくるのは我慢ならない。それが、とくに意味もない触れあいであるならば。そして、それを知ってなお触れようとするのならば尚更。
「んん、やっぱイチカ、反射神経いいねー」
「裁判長…わたしやっぱりあなた嫌いです…いくらわたしたち3人を拾ってくれたとはいえ………」
「笑顔で言うことじゃないよなーそれ」
おっとこれは失礼。両手で頰をつまみふにゅふにゅとマッサージする。
「そういえば、図書館でフウマとユウキを見たよ。イチカどこにいるか知ってますか、だって」
な。
「そ!れ!を!早く!言ってください!!!」
「あはは」
笑う裁判長なぞもうどうでもよく、早くフウマとユウキに合わなくてはと回れ右をする。すると意外や意外、トッキーがまだそこにいた。すっかり先へ進んでいたと思ったので、思わず足を止める。
「トッキー、どうしたの」
「……」
「わぁ無言……ああ、裁判長になにか用だった?」
ならこの場において、わたしは最初から邪魔な存在であったわけだ。まぁ、裁判長の嫌いを再認識してしまったのは兎も角として、フウマとユウキの居場所がわかったから気にしない。
「じゃあね!トッキー!裁判長と仲良くね!!」
「黙れ…」
「うん、べつに本気で言ってない」
裁判長と仲良くしようがしまいが本気で心の底からどうでもいい。ただトッキーの感情が、負にせよ正にせよ、どっちかに分かりやすく転がってくれたら面白いなーなんて思わなくもない。そうなると、そのための役者として裁判長は必要なのではないかなーと思ったり。
うん、まぁ、それはおいといて!
早くフウマとユウキに会って、朝ごはんを食べに行かなくては。
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時系列(そもそも世界機関の時間の流れはどうなっているのだろうか)
呼吸を忘れた、からかなりの時間が経つ、水面〜前の時…時代?