いらない。
いらない。
いらない。
いらないんだってば。

水面の下で月に乞え 14


「この状況下においても共闘をしようとしない貴方には心底感激するよ」
無駄に広いこの世界、果たして先ほどバラバラに散ってしまったーしかも相手は絶対わたしと合流する気がないーわたしたちが敵に出くわす前に出会えるかなんて、わりと聞けまでもないと思ったのですが。会えるものなんですね。そして会ってもトキはわたしを無視するんですね。敵より先にストレスでトキを攻撃してしまいそうです。抑えなくては。
「トキ、貴方、さっき結構負けてたじゃん。1人で勝てると思ってるわけ?」
「…」
「それとも、勝てるから戦うじゃなくて勝てるまで戦うつもり?」
「…」
「彼女は世界犯罪者だよ?いままではそれを黙ってたみたいだけど、これからはそうはいかないでしょ。」
「……あいつは、俺がやる」
やっと喋ったと思ったら、それですか。「なんでそんなに彼女に執着しているわけ?」
ため息をつくように吐いたその言葉に、トキはピタリと足を止めました。地雷にでも踏み込んだでしょうか。別にそれでも構わないのです。それよりも、わたしは早くここを解決してシグナルに戻ることの方が大事なのです。
「…お前には関係ない」
「うん、関係ないね。関係ないことに巻き込まれて心底うんざりだね。トキとあの不死の子のあれこれなんてわたしには一切関係ない。どうでもいい。さっさとその執着心折れてくれない?」
吐き捨てるようにいうと、トキはこちらを振り返ります。なるほど、トキと不死の子についてはやはり彼の地雷らしく、まるでわたしこそが巨悪の根源みたいにこちらを睨んできます。わたしはそれに隠さずため息をつき、睨み返しはしないけれど見つめ合います。
「お前はどうなんだ。」
「なにが?」
「あの不死の男を相手にしろと言ったら、お前はできるのか。」
目を細めます。仕返しのつもりなのか。すでに、わたしが彼に対して冷静でいられないことなど、トキは分かっているはずです。けれど、
「できるよ」
「…」
「あれはいてはいけない存在だから。むしろ、早く消さなくちゃいけない。でも、わたしが直接することはできない。だからこそ、貴方に早くしてと言ってんの。」
トキは、何も言わずにわたしをずっと睨み続け、やがてふと興味を無くしたように、なにを考えているのか全く分からない無表情に戻りまた歩き出します。それにわたしはまたもやため息をつき、あとをついて行きます。
しかし、武器もなにも持っていない今のわたしにとって、あのレウちゃんに勝てるかどうか。不死の団体を相手した時のように、武器を奪っていくことは不可能。彼女の武器は糸であり、手に絡まりついているのですから。…どこかそこらへんに武器が落ちていたりしませんかね…。と、思ったらにゅっと視界の端から一丁の拳銃が現れます。
「これ使う?」
無視しようと思いましたが、なにせ例のごとくのにこにこにやにや顔で大変不愉快で、その顔を睨まずにはいられず、無視はできませんでした。
「なんでいるの…。」
さきほど、明らかにもうお別れみたいなシーンでした。絶対。何故また出てくるのでしょう。空気が読めない野郎でしょうか。
「わぁ、すっごい罵倒されてる気がする!シグナルちゃん、もしかしてはらぐ…と。」
ひゅんっと飛んできた何かを、ボスさんはさらりとかわします。なんというか…トキの、ボスさんが現れるたびになにかしらの攻撃を忘れない律儀さは凄いと思います。…まぁ、あの不死の子の話を聞いた後では、トキがこのボスさんを嫌うのも妥当だと思いますが。
「もぉ、いまシグナルちゃんと話してたのに、割り込みは駄目だよ?トキ。」
「黙れ」
「はぁー!もう最近すっごく攻撃的になっちゃってもー!まぁ、昔の無関心よりは良かったのかな?ほら、好きも嫌いも相手を意識している故の感情、てね?おっと、もー短剣しまいなよ!」
その言葉は、たしかにトキに向けられたもののはずなのに、なのに、ぎりぎりとわたしの心を締め付けたのです。
「ちょ、ちょ、ほんとタンマ!トキ待ってっ!あっぶな!!激しいなぁもう!尚とレウにだってこんな激情向けたことないくせにさぁ…あれでもこれが愛だと思うと結構ぞくぞくするかも?」
「…っ」
あ、これ結構まずいのでは?て思うほどの殺気にぶるりと身体が震えるのを、腕を握りしめることで抑えます。この人は…ボスさんは…人の地雷を踏み抜くのが好きなのでしょうか…。顔が思いっきり笑顔ですいやずっと笑ってはいるのですが…。
「お前が…、」
低く、低く、ゆっくりと吐き出された声。
「その名前を口にするな…!」
ぶわり、と力が溢れ出るのを感じ、さすがに焦ります。だってあれ、裁判所の力ですよね?
「トキ!それいま使うのは無駄遣い…」
「部外者は黙れ!」
短剣を構え、トキはもうやる気満々で、それを変わらずにこやかに笑いながらボスさんは止めることもせず…。
あ、わたしだけでも逃げようそうしよう、そう思ったときに。
「…きたね」
ボスさんが呟くとともに、別の力を感じ取り、同時にいま立っている場所から離れるべきだという直感に従います。ひゅんっとなにかが空を切る音ーそれは糸。
彼女の武器。

「ひゃー、なにしてると思えばー!」

ふわりと長い黒髪を靡かせながら、

「トキくん、激おこじゃん!可愛い♡」

にこりと笑い、不死の少女は再び現れたのでした。