叶うなら、ずっと一緒にいたかった。
それでも身体は動く。
自分なりに生きるために。
本心はいつだって、身体に置いてかれる。

水面の下で月に乞え 9


「………」
「…、……」
無音の時間が続きます。彼はもう、わたしを見ません。それでよい、これが正しいのです。
それでも、彼はまだ何かを訴えようとします。まともにこちらを見れないくせに、顔をゆるりとあげて、視線はゆらゆら揺れながらも弱々しくわたしに向け、口を開いては閉じて。
わたしは、なにも言いません。彼を見つめ、けれど彼から言葉を汲み取ろうなんてことはせずに。ただ、彼の言葉を待ちます。まぁ、なにを言われても流すのですけれど。
わたしのその様子に、彼はぐ、と唇を噛みます。そして、意を決したように口を開き、言葉を吐くーそのときに。
「長い」
ーええ、忘れていません、忘れていませんとも。
トキ、あなたがわたしたちのやりとりを黙ってみていたのを、わたしはちゃんと分かっているし、あなたの存在を忘れていたわけではないのです。むしろ、果たしていつ彼を攻撃するのかと不思議でしょうがなかったのです。しかし、彼はトキの存在を忘れて、見えていなかったのでしょう。なんて馬鹿な人。戦場において、周りの存在を全て認識できないのは致命的です。だからあなたは、トキのいきなりの攻撃にも対応できないのです。
「ーぐ、あっ……!!」
彼の胸をしっかりと貫く短剣を、トキは無表情で抜きます。ざしゅっと血は飛び、胸を押さえた彼はふらふらと揺れて倒れました。
「話が長い」
「あれ?きみ、途中で口を挟まななんて礼儀知ってたの?てか、その礼儀を敵に適用する人だったの?」
そう言うと、じろりとトキはこちらを睨みます。わたしの皮肉はばっちりと彼に伝わったみたいです。つまりは、勝手に攻撃すればよかったのに、です。トキは視線を彼に移し、再び短剣を彼の背中に突き刺します。再生が始まり身体に戻っていた血は再び、別の傷から吹き出します。余計な手間がないように、けれど彼が意識を取り戻す前に、再び彼を〝殺す〟行為。…再生にかかる時間が分かっているような、そんなタイミング。けれど、幾分か前の戦いから、わたしは不死らが再生にかかる時間はそれぞれということを理解しています。彼は前にも一度、彼に会ったことがあるのか、それとも再生の状況からタイミングがわかるのか、いずれにせよ彼は、不死についての知識と不死との戦闘の経験をそれなりに積んでいることになります。
「…全く、本当になんなの、不死て奴らは」
トキはちらり、とこちらを見てから再び短剣を彼に突き刺します。…これで、彼は3回死んだことになります。ていうか無視ですか。文句ひとつ言ってやろうかと思い、口を開きかけてそれに気づきばっとその場を離れます。そして、そのすぐ後にどさっと先ほどの少女が飛ばされてきました。白い服はほぼ赤に染められて、手足に力もなく。まるで、本当に人形のように地面に倒れています。
「う、…あ、…」
小さく呻き声が聞こえるものの、動く気配は一切ありません。
「はぁー、疲れたー、もう。」
裁判所のボスさんを見ると、少女に比べると少ないもののそれなりの傷を負っていて、2人の戦いがよほど激しいものであったことを知ります。……なのに、わたしはそちらに意識が向かなかった。
ー君のせいだよ。
いま再び殺された彼に向けて心の中で吐き捨てます。
ーほんとうに、
「きみたち、いい加減さ、」

死ねばいいのに。

「裁判所、no.2、トキ」
なるほど、トキが彼を殺し続けて裁判を行わなかったのは、2人まとめて裁くためだったのですね。
キラキラと作り上げられていく本日2回目の裁判所を眺めながら、ふぅ、と息を吐きます。これが終わったら、なにがなんでも彼らから不死について聞かなくてはなりません。きっと、そろそろシグナルの皆さんも来てくれる頃ではないでしょうか。…にしても、あのボスさん、へらへらしているわりにシグナルから逃げることができたり不死の少女を一時的にとはいえ再起不能にするとは。まぁ、不死に対する殺気は半端なかったですが。
そんなことを思いながら、ちらり、とボスさんを見ます。果たして不死を罰する瞬間を、あの人はどんな表情で見届けるのか…あ、笑ってますね、はい。口角を上げて、目を細めて…
「…来たね」
「…え?」
ボスさんがクスリと笑って、
「ーこれより、裁判を、」
トキが言葉を紡ぎ、


「始めませーん!あは!」


少女が笑い、
裁判所は崩れた。