「なに、どうしたの」
「××がいつもの路地裏の奴らにボッコボコにされてたんだよ」
「へぇ、で、君の怪我は」
「その奴らを俺がフルボッコにした」
「いや、君もちゃんと攻撃受けてるじゃん」
「それより××を慰めてやってよ、あいつまたわんわん泣いてんの」
「悔しかったら強くなれって言ってやりなよ」
「それが5歳の子どもに言う言葉かよ…」
「あなたみたいに守るだけじゃあ人はやっていけないよ」
「え、なんで俺責められてんの?」
「守り方もちゃんと教えろって言ってんの。だって、」
「みんなでずっと一緒に生きてくなんて、夢でも出来ないのだから」
水面の下で月に乞え 4
果たして監視とは。
そう思いながら過ごす数日間でした。監視対象と言っているのにあちらこちら動き回る上に一言も口をきかず、それどころか毎度毎度睨んできます。しかもなぜか色んな世界へと渡り始めます。何度見失いそうになったことか。というか、裁判所の〝庭〟ではすでに何回か見失ってます。だからわたしは監視には向いてないと言っているのに。なぜハナちゃんはわたしなんかを監視対象にしたのでしょう?こういうのは留哉の方が適任です。それにしても、彼は一体なにに喧嘩を売ったらこんなことになるのでしょう?そしてなぜわたしは巻き込まれているのでしょう…。そう思いながら、わたしは身体を右に逸らします。ヒュンッと刀が空を切ります。わたしは懐から、先ほど倒れてる人から拝借した銃を刀を握る人に向けて撃ちます。パァンッと弾丸はその人の眉間を貫き、赤い血がぶわぁっと噴き出します。ついで適当に4発。右肩、腰と腹に2発。弾切れになったので、銃はそこらへんに捨てます。その間に、撃たれた人は膝から崩れ落ちてバタンと地に伏します。倒れた瞬間、わたしは素早くその人の手から刀を抜いて、第2波の2人を刀で切ります。切れ味があまり良くないようですが、1人は腹、1人は胸あたりに傷をつけることができました。さて、どこを刺しましょう。そして、これで彼らは倒れてくれるのでしょうかー、そう思った時、後ろから来る衝撃を察したわたしは低姿勢で右に避けます。先ほど撃たれたはずの人が、どこに隠し持っていたのか、ナイフを片手にこちらを睨んでいます。彼についた赤い血は、しゅわわーと霧のようにざわざわと揺れて傷口から身体の中へと帰っていきます。彼が地面に落とした血も同様の動きをします。
「やっぱり、駄目か…」
そう言いながら、わたしはとりあえずその3人から距離を取ります。瓦礫の山をタタンッと駆け登り、廃墟の屋根の上に立ちます。そうすると、いまこの戦場の状況がよくわかります。敵は大体10人ほど。3人はいまわたしを追いかけて瓦礫の山を登っています。あと3秒で来ると予想します。残り7人が集結してねらっているのは、わたしの監視対象ー裁判員のトキ。ああもう、ほんとうにあの人は…。そう思った瞬間、2人がバッと現れます。2人。じゃあもう1人は。
「後ろか」
振り返ると同時に刀を振り上げます。それをその人は避けます。全く、蓮月やハナちゃんでないのだから、3対1は辛いものです。しかも、です。わたしはとりあえず、1番近くにいた人の心臓を、その刀で貫きます。噴き出した血と、口からごふっと溢れた血はわたしを容赦なく濡らします。出来れば刀を抜きたかったですが、ほか2人の動きが早いために刀は突き刺したままわたしは大きく後ろへ跳びます。刀に刺された人は、自分の手でその刀を抜きます。ぼたぼたと血がまた出ます。ゲホ、と彼はまた血を吐きます。そして、その血は地面を濡らしてーゆらりと揺れます。さきほどわたしが撃った人のように、彼が流した血は、わたしについた血も含め、ゆらりと揺れて全て彼の元へと戻って行きます。さきほどから、こればかり。つまり、なんでしょう、彼らは。再生能力があるのかなんなのか、死なないということでしょうか。武器をなくしたわたしは、とりあえず屋根から、今度は瓦礫を踏み台にせずそのまま飛び降ります。それを追って3人も飛び降りてきます。しつこいなぁ、もう。そしてわたしは1対7の輪の中に飛び込みます。途中で足蹴り飛び蹴り利き手パンチを数名にかわしてやりましたが、それはほんの数秒の時間稼ぎにしかならないことをわたしは学びました。そして、多勢に攻められていたトキの前に立つと、トキはじろりとこちらをにらみます。仕方ないです。彼らと出くわした途端、全勢力を自分に集中させろなどという無茶振りな命令をして急に戦闘が始まったのですから。結局わたしに向かった勢力をちゃんと彼の元に届けたことを感謝してほしいです。彼は、両手にいくつも持っていた短剣をひとつだけ残しすべて地面に落とします。
「裁判所、No.2、トキ」
にげろ!まさか、やつに俺たちが負けるわけがない。けどー、
そんな声が聞こえました。さて、なにが始まるのか、彼らには分かっているようですがー…まぁ、わたしにもなんとなく予想はつきます。ただ、実際に見るのは初めてです。
裁判所の、処刑の瞬間。
「裁判を開始する」
すると、ぶわぁっと辺り一面に眩しい光がキラキラと溢れ出します。思わず軽く目を閉じかけ、けれどこの瞬間を逃さまいとなんとか薄く目を開きます。そして、それは出来上がりました。法廷。裁判員が作り出す、世界の秩序を乱す奴らを裁く場所。裁く人はトキ、裁かれるのは彼ら10人、傍観者と言う名の部外者であるわたし。トキはそのまま、短剣を振りかざします。
「被告人10名、罪名、不死。判決、」
淡々と言うその声は、まるでシナリオを読んでいるよう。そして、わたしはある2文字によって、静かに息を止めます。しかし部外者のわたしの言動なんぞここでは関係ありません。
「死刑。ー全員、静粛に死ね」
わたしはとりあえず、耳を塞ぎました。この後に響き渡る絶叫を、出来るだけ聞かないように。だって、人が死ぬ間際に出すあの声は、頭が痛くなりますもんね。遠くで、どうして、という声が聞こえた気がします。気のせいかも知れないけれど。
そして、あたりは一面赤に染まるのです。
それは先ほどまでのように、元の身体に戻ることはなく。その赤は、地面を濡らし、彼らを濡らしています。近くにいたはずのわたしとトキだけ、赤には染まらずに、その赤の中心に立っています。
「さてトキ、」
「……」
珍しく、彼はわたしの声にちゃんと反応を示します。と言っても、ゆるりと顔をこちらに向けるだけですが。
「説明、してくれるんですよね?」
ひゅ、という呼吸音が聞こえました。果たして、息を吐いたのはわたしか君か。それとも両方か。
少なくとも、地面に転がる彼らではないでしょう。