突然ですが、シグナルトップさんの部屋です。入るのは初めてではありません。3回目、だと思います。シグナルに入る時と……、わたしがシグナル員であり続けると誓った時、ここに入りました。そのときは、向かいにあるデスクの椅子にはシグナルのトップさんが座っていました。見た目は完全にわたしよりも下の少年ですが、とてもとても長生きさんです。しかし、いまはその方がおらず。代わりに、と言いますか…、上司の机の上に堂々と座わりおまけに足も組んでいるハナちゃんがいます。
「とりあえずー、ここまでわざわざ来させて悪かったな!ここお前の部屋から遠いだろ」
「いや、大丈夫だけども…」
「本当はさぁ、あの人がちゃんと対応するはずだったんだけどな?ちと面倒なことになってなー」
…ハナちゃんのいうあの人、とは紛れもなくシグナルのトップさんのことでしょう。未だに信じられませんが、ハナちゃんは実はシグナルトップさんの側近です。いやほんとです。それでいてあまり忠誠心が見えないのは気のせいではないはずです。それでも、ハナちゃんがトップさんに付き添ってどこかに出向くことはよくあるし、シグナルの情報管理もハナちゃんはします。あの自由奔放で他人に合わせることを知らないハナちゃんが、なぜ側近なんぞ出来るのかは知りませんが、もう長年その立場にいるそうなのです。側近としてのトップさんからの信頼は厚いということでしょう。
「というか、対応て?」
「あぁ、わりととんでもねぇ事態になってたって話なんだけどよぉ」
……なんだか、これからわたしそのとんでもないことに巻き込まれる予感がします。てか予感しかしないのですが。とりあえず、そのとんでもなさがどれぐらいかを知りたいですね。
「まず1つな、」
「複数あるの!?」
回れ右して帰りたくなりました。もしかしてあの白黒人間は死神だったのでしょうか。
「今回の、予期せぬ世界破壊…まぁつまりシグナルでない誰かによる世界破壊は実は初めてではない」
「…は?」
「今のところ発見できたのは4つ、いずれもここ数年のうちにやられていた」
「え?」
「つまり今回のは5つ目だったってことだ」
「いや、いやいやいや…いやいやいらいや!?」
おかしいです。絶対おかしいです。世界が5つも壊されていて、このシグナルが気づかなかった?あの世界機関中枢の立場を謳うこのシグナルが?そんな馬鹿で阿呆な話があるというのですか!
「まぁ聞けって。言いたいことはわかる。俺がこれをあの人から聞いたときは、疲れて呆れた夢でも見てるのかと思って思わず頬を引っ叩いてよぉ」
「あぁ…だから頬がやや腫れてるね…」
「あ?いやこれはその引っ叩いたやつの倍返しでグーで殴られたんだ」
「トップさんを引っ叩いたの貴方!?」
末恐ろしいにもほどがありますこの女装男。ほんとうになんで側近なのでしょうか。
「で、なぜ我がシグナルがそれに気づかなかったかっていうと、裁判所による妨害があったからだ」
「はぁ!?」
妨害?裁判所が?シグナルを?そんな馬鹿で阿呆で大馬鹿な話があるのですか?そんな…。
「まぁ、やつらの反シグナルな態度は知ってはいたがな、今回はさすがにやべぇだろ。しかも、これに関わっているのは裁判所のトップとNo.2だ」
「ああ、ちょっと待って、頭が追いつかない…。えっと…とりあえず、No.2…?…あぁ、あの胡散臭い笑み貼り付けた優男…」
「ライラの時折口が悪くなるやつ俺結構好きだぜ?」
…いやいまそれそんなに重要ですかね?まぁ、それにほんとにそうなんですけど…。だれにでも愛想振りまく人が、良心を持っている人だとは思えません。敵味方の区別をつけないのは、いずれもどっちに転ぼうが関係ないという孤立人だとわたしは思うのです。いやまぁ、だからそれは関係なくてですね?そういうと、わたしの混乱など気にせず、ハナちゃんはへぇなるほどとうなづいてにこにこしてます。そして、
「ま、そいつはすでに死んでるがな」
さらりと言います。
「っ!?はぁっ?え?ああ!?」
もう限界です。わたしの頭はオーバーヒートしましたええいもうどうにでもなれと投げやりになりたくなるほどに。たしかあの優男、No.2だけあってそこそこ強かったような。
「もうなにがなんだかだよなぁ?いま、緊急世界会議開いて裁判所のトップに洗いざらい吐かせているところだ。たく…ほんと、裁判所如きが…なぁ?」
話が飛びすぎてもう訳がわかりません。えぇ…え…えと…え、と………、とにかく…あれ、でも、
「じゃあ、ハナちゃんがさっき言っていたNo.2て…?」
「それが、お前があの世界で見たやつだよ」
…あの白黒人間…!?
「で、3つ目。ライラ、お前に命ずる」
ハナちゃんは、一枚の紙を差し出します。ペラッペラの紙で、表にしか字が書いてありません。紙の1番上には、他の字よりも少し大きめの字で1つの名前らしき文字が並んでいます。
「〝トキ〟…?」
その文字を呟くように読み上げると、ハナちゃんはにやりと笑います。
「裁判所隊員No.2、トキの監視をしろ」


水面の下で月に乞え 3