「おきるじかんだよー!!」
「ぎゃー!**ねぇさんいきなりカーテン開けるのやめてってばー!!」
「睡眠妨害だよぉ…」
「しっかり起きないきみたちが悪いのよー!ほら、**も起きて!布団被らない!」
「**、**が微動だにしないのだけど」
「**は引っ叩くと起きるよ」
「にゃっ!?」
「あ、ほんどだ。」
「ほらほら!もう時間だよ!シスターが待ってるんだから!起きない子は朝ご飯食べられないからね!」
「**声大きいよぉー」
「こうしないとみんな起きないからでしょ!」
「はーい!この人まだ寝てまーす!」
「え?珍しい。いつもならとっくに起きてるのに。ほーら!起きてー!」
「ライラ!」
天井が見えました。
しばらく、天井を眺めました。
そして、彼らの名前が思い出せないわたしを、わたしはー………。
水面の下で月に乞え 1
「ライラ、顔色悪くない?」
蓮月が至近距離で尋ねます。彼女のパーソナルスペースは把握しました。異様に近い。そして、慣れました。
「すこし、寝すぎたかな」
「寝すぎたら顔色悪くなるの…?」
わからない、と彼女は首をひねりました。わたしも分かりません。たぶん、今日見た夢が原因なのでしょうが、それはべつに悪夢ではなかったわけで。「逆にいつも睡眠不足じゃねぇの?お前」
留哉の声が後ろから聞こえたので、蓮月とともに振り返ります。そして、蓮月はうへっと苦い顔をして、わたしも顔を歪ませます。留哉は、でっかい酒瓶を持っていました。その瓶には見覚えがありました。昨日仕事で行った世界で、留哉が沢山ある酒の中から真剣に悩んで買ったものです。それが、いまや中身がからっぽです。そして、本人はとても普通にけろりとしています。
「まさか1人で…?」
わたしがやっとのことで言うと、彼は軽く笑います。ご機嫌です。ご機嫌と、ほんの少し酔っています。彼は、酔うとやや笑顔の割合が多くなる傾向にあるのです。
「ルノグと、昨日は珍しくハナがいたな。」
「ちょっ!ルノグはいいけど、ハナハナは酒慣れしてないんだけど!?」
「飲んではいない。ただ、潰れてくルノグを見て笑ってただけだな」
「なぁんだ、驚かせないでよもぅ…」
ルノグが潰れることも問題だと思います。ルノグのためにも、蓮月は心配するべきだと思います。というか、パートナーなのだし。しかし、留哉の酒飲みに付き合わされたルノグは大抵潰れるので、慣れというものかもしれないです。わたしも、最初はおろおろしましたが、いまではああまたかレベルで大丈夫だといいなぁ程度の心配しかしません。ごめんなさいルノグ。
「話を戻すけど、留哉、わたしべつに睡眠不足じゃないからね?」
「1日平均睡眠時間3時間の人に言うことか?」
「3時間!」
蓮月ががしっとわたしに抱きついてきました。なにごと。
「うあああだめだよライラ!ちゃんと健康的な生活送らないと!!ただでさえあなた薄っぺらいのに、体調不良で倒れたらどうするの!!」
「う、うすっぺらい…!?」
というか、わたしよりはるかにこの人の方がよく倒れているはずですが。
「だ、大丈夫だよ……昔から、この睡眠時間だから…ふぐぇ…」
「蓮月、そこらへんでやめてやれ。ライラが押し潰れるぞ」
「は!」
ぱっと蓮月がいきなり離れたので、わたしはふらっと、体の重心の置き所を忘れてしまいます。
「おっと」
それを、後ろからナイスキャッチで留哉が支えてくれました。
「気をつけろ蓮月、こいつ、バランス能力は低いから」
「はーい!ごめんねーライラ!」
「大丈夫。あと、べつにバランス能力低くないから。」
顔を上げると、留哉の顔があります。
「ありがとう、留哉」
「どーも」
頭をぽんぽんと撫でられて、わたしは留哉から離れます。どうも彼は、時折わたしを子ども扱いします。初めて会った頃はそうでもなかったのに。…まぁ、初めて会った頃は、わたしもこんなんではなかったので、その対応とも言えるのでしょうが…、…やめましょう。過去は過去です。もう、意味がないものです。
「じゃ、俺はこれ捨ててくるから。今日は仕事あったっけ?」
「出動も書類もないよ。休日。」
「ほんとっ?わたしとルノグもだよ!集まってなにかしようよー!ハナハナも誘ってさ!」
「ああ、あいつもたしか今日暇だとか言ってたな」
隣で蓮月が、やったー!と両手を上げて喜びました。蓮月は、こう見えて人見知り……人嫌い?とにかく、仲良い人以外とはとことん付き合わないけれど、仲良い人のことはとっても大好きな人です。だから、こうして子供っぽく騒ぐ姿も、わたしたち以外の人には見せないのです。その場に他の誰かがいたら、蓮月は自重して態度が少し控えめになります。でも、わたしはこの時の、全力で子どもっぽい蓮月のほうが好きです。
『ライラは、子どもが好きなんだな!』
「ー……」
「どうかしたか?ライラ」
「いえ。なんでもないです。」
「…そ」
夢の影響はすごいです。まさか、いきなりこんな、なんともないことで声を思い出すだなんて。ああ言ったのは誰だったのでしょう。思い出せないのです。
そして、大切だった誰かの名前を思い出せないわたしを、わたしは、なんとも思わないのです。