暑い。
風に揺られ、さわさわと黄色い花たちが音を立てる。自分よりも背の高いそれの下にしゃがみこみ、私は真上の太陽をぼうと眺めた。
景趣を変えたのは、つい昨日のことである。そろそろ夏に変えようということで、近侍と一緒にこの向日葵畑を決めた。辺り一面、というわけではないけれど、庭の一部を占拠して咲き誇る黄色は圧巻。「おお……」と語彙力のなさが露見する反応をした横で、近侍は風流だと一句読んでいた。内容は忘れたが。
さて、そんな向日葵畑だが。ふと、あの花たちの中はどうなっているのかと思った。いや、ただの花々であることは分かっているのだけど。自分よりも背の高い花畑の中からは、どのような景色が見られるのかと。滅多にない機会である。思い立ったら即行動と名高い私である。そんなわけで、近侍の目を盗み仕事を一時中断し、黄色い海へと飛び込んだ。
そして現在、ここにいる。
ここは、なんとも居心地がよかった。花の匂い、じっとりとした暑さの中を通っていく風の感覚。目を閉じて耳をすますと、向こうの庭にいるのだろう短刀たちの声がうっすらと聞こえてくる。
「なにをしているんだい、君は」
「わっ」
後ろから声をかけられたかと思うと、ぽんと頭になにかをのせられる。声から予想した通り、そこにいたのは近侍だ。
「麦わら帽子だぁ……」
被せられたそれを両手で掴み、彼を見上げる。
「この暑さだ。外に出るときは帽子をしないと、熱中症になってしまうよ」
「ん」
呆れながらも、やんちゃな子どもを見守るようなその笑みが好きだ。かつてそう溢したことがあるが、本刃は「僕は君の親ではないのだけどね」と苦々しい顔をした。「君は僕の主で、僕は君の刀だ」その言葉が、いまも私の心の中心にある。
「やっぱり、歌仙はお母さんみたい」
「……まったく、なにを言うかと思えば」
そう言って私の刀はまた、己の、私の存在を言葉で証明する。
その言葉をくれる限り、私はきっと事あるごとに無邪気な子どもになる。きれいに凛と咲き誇る向日葵でさえ利用して。
暑いね。
愉悦に満ちているだろ顔を隠すように麦わら帽子を深く被り、すごく暑いねと、私の初期刀に言う。
そして、彼が戻ろうと手を差し出してくれることを、私は当然のように知っているのだ。