分かれ道又は行き止まり

それは、《庭》にある温室を超えた向こうにある、植物が無造作に植えられた、出来物にしては雑な〝森〟の中にあった。

(森というより、ジャングルだよね!)

うざったいその声を掻き消すように、軽く頭を叩きながらその〝森〟の中へと入っていく。なにかよくわからない花を踏み、なにかよくわからない草を掻き分け、奥へ奥へと。そして、広い野原に出る。〝森〟の真ん中から少し外れたところにぽかりと空いている野原だった。そして、そこに一つのお墓。幾つかの世界では、死んだ人を祀るものとしてお墓を作るらしい、と聞いたあの人が作った。胸糞悪いことこの上ないが、この下に彼がいることは事実なのであった。お墓の前に座り、持ってきた花を添える。ついさっきまで仕事で行っていた世界から持ってきた、薄い透明な花弁を持つ花だった。
「今日は、はずれだった」
言っても、聞く人は誰もいない。けれど、毎回それだけはいう。今日行った世界が、あたりかはずれか。そして、それ以外は何も話さず、ただずっと座っていたり、たまに横になって寝たりするだけだった。死んだ人と話すことなどできない。
本部にはできるだけいないようにしていた。あの人に会わないように。出来るならば、この先会わずにやっていきたい。無理だけど。
ぴりり、と機械音。小型通信機からだった。ポケットから取り出す。
『もっしもーし?』
とても聞きたくない声だった。
『あれ?聞こえてる?……壊れてるのかなぁ…?』
「聞こえてる。用件は?」
『相変わらずの塩対応だねっ!もう少しぐらい温度上げていかない?』
「用件は?」
『つれないなぁ、全く!……目撃じょーほーだよ。ほしいでしょ?』
明るい声のままであったが、それはどこか嘲笑うようなものだと感じた。
『情熱的だねぇ、愛だねぇ、これは』
「どこだ」
まぁ、慣れているから気に留めないが。決まり文句も聞き流し、立ち上がって目的地へといく準備をする。


目撃情報があった世界は、どこか聞き覚えのある世界で、事実足を踏み入れたら思い出した。一度仕事であいつと来たことがある世界だ。なんの仕事をしたかまでは覚えていなかった。あたりを見回すと、人が多い。人混みから避けるように路地に入る。なぜ、ああも人は群れるのか。

(世界は絶望的だね。ありとあらゆるところで戦争が起こり、人と人との衝突が絶えない。人とは一つ一つが全く性質が異なるにも群れでの生活を余儀なくされる。そこで衝突が起きない方がおかしいよね?)

…なにかあるたびに、あの声が聞こえる。ずっと一人で勝手にペラペラと喋ってくれやがったおかげだ。その性質はいまも全くもって変わっていなかった。ただ……。

からん、と音がする。振り向くと、薄汚れたマントを羽織ったあいつがいた。やはり、目の色が変わり始めていた。茶色に少し、緑色がかかっている。

「やっ元気?」

声は変わらない。

「相変わらず不機嫌な顔だねぇ!」

楽しそうに笑いながら話すのも変わらない。

「ていうか、なんでトキくんわたしがいく先々の世界にいるの?…は!今度はわたしをストーカーしてるとか?えぇー困るなぁ。端から見るから面白いのに、ターゲットがわたしだったら端から見れないじゃんかー」

本当に、ペラペラとよく喋る奴だった。その間に、短剣を用意する。

「あれ、やる気なかんじ?まじで?」

「裁判所、No.2、トキ」

いつも通りの行動をするのに、いつも通り、あれなんでー?という顔をする奴に向けて、短剣を構える。目はそらさない。逃すつもりはない。こいつみたく、逃げるつもりもない。
今日こそは。

「犯罪者、レウ。俺がお前を処刑する」

執着とかストーカーとか、そんなもの知ったことか。自分はこいつを処刑する。ただそれだけの話だ。

そして、満足そうにこいつは笑う。

「期待してるよ、トキくん!」


ーどう足掻いても、これが現実ー