寄り道
わたしの故郷の終わりは、結構長引いた方だそうだ。世界処理担当のシグナルと、緊急援助として裁判所の数十人が出動したらしい。魔術と魔物が存在する世界で、人口もそれなりに多かったためと言われている。
魔術が存在する世界で、わたしは珍しく魔力というものを持たず生まれた人だった。が、田舎で生まれたわたしは、それについてとくに周りになにか言われることもなく、わたし自身もそこらへん駆け回ってきゃっほーしてるただの少女だったため、
支障もなにもなかった。時折ふっと悲しい顔をされることもあったが、そんなんとくに気にしなかった。ただ、幼い頃から時折、急に意識がとんでハッと目覚めたら倒れる時の記憶がなかった、ということが何回か起きた。魔力が使えないことが、なんらかの形で神経に支障をもたらしているのだろう、というのが村のお医者様の診断だった。
田舎の中で、わたしと同じ年齢の子はいなかった。代わりに、いっこ上のおねえさんがいた。おねえさんは、よくわたしの手を引いて森へ行き、ともに動物と戯れたりして遊んでくれた。わたしの歳が2桁になっても、ずっとわたしの手を引いていた。おねえさんの手のぬくもりが、お母さんよりも好きだったのはだれにも内緒の秘密だった。
世界の終わりは、突然だった。
「ほし?」
おねえさんの呟きで、わたしはぱっと空を見た。青い真昼間の空を、虹色に輝くまあるいなにかが、ひゅんひゅんと走って行く。そして、キラッと消えて。
凄まじい落下音が響き、強い風と地震が起こった。
「レウ!」
ぱっとおねえさんが覆いかぶさった。大好きなおねえさんの香りがした。ぶわっと、感じたことのない感覚がした。風に、飛ばされていた。
ぱちっと目が覚めたとき、目の前でおねえさんが死んでいた。
森まで飛ばされて、崖の谷底に落ちたらしかった。ぼんやりした頭で、自分の体をみた。かすり傷しかなかった。
「おね、さ……、」
がさり、と音がした。
「……きみ、生きてるよね?」
おねえさんと自分以外の景色を、初めて視界に入れた。男の人が、立っていた。視界を広げてみた。
どこだろう、ここは。そう思った。
無駄にきらきらと輝いていて眩しく、辺りを見渡すと、先の景色が見えない……なかった。
「やっぱり。きみ、適合者か……」
てきごうしゃ。
そのことばを、頭の中で反復した。
そして、再びはっとすると、辺りは真っ白な空間になっていた。森もない、おねえさんもいない、白い白い空間に、ふたり。
「……、だれ?」
「裁判所」
端的に答えられたそれに、わたしは首をかしげた。はて、裁判所が何の用だろうか。わたしは、なにか罪を犯しただろうか、などと考えていた。
「きみ、名前は?」
「………………レウ」
名乗った後に、これ、名乗ってよかったのかなと思っていた。男の人は、すっと笑った。笑ってるけど哀れみも見えた気がして、わたしは少し不安になる。ああ、そういえば、そんな顔を時折する村のみんなはもう、いないってことだろうか。そう思っているわたしをよそに、男の人は言った。
「はじめまして、レウちゃん。きみを、裁判所は歓迎します。」
手を差し出された。
暫くその手をぼう、と見ていた。そして、気づく。
「名前……」
「え?」
「きみの、名前。きいてない」
その言葉に、男の人はああ確かにとわらう。先ほどの哀れみは見えず、そもそも哀れみが見えたとはどういうことだろうと自分を不思議に感じた。
「ごめんね、レウちゃんはちゃんと名乗ってくれたのに。そうだね。俺の名前はね、尚って言うんだ。」
なお……なお、なお。頭の中でその名前を繰り返して、差し出されていた手を、わたしは握った。よくわからないけれど、たぶん、わたしはこの人についていくのが一番いいのだと思った。わたしの手を引いてくれるお姉さんは、たぶん、ていうかきっと、もういない。それどころかお母さんも、村のみんなも、村も……世界すべて、わたし以外が、ない、のだろう。一気に大規模なものを失うと、喪失感というか、そういうものが感じないんだなぁ。実感湧かないからかなぁ……。そんな思いが少しめんどくさくなったので、わたしは考えるのをやめた。なんだか、とても疲れたのだ。
とりあえず、わたしは礼儀程度に笑顔を見せた。
「よろしく、なーくん。」