15

わたしは死ねない。不死だから。なーくんは苦しむ。わたしがいる限り。正しいのはきっと、わたしがいなくなること。でも、わたしは死ねない。なーくんがわたしを処刑すれば話は別だが、問題は他にも。わたしがただなーくんの前から姿を消すだけでは、なーくんは救えない。わたしを殺し続けてしまった過去は変わらないから。ならどうすればいいか……。

「なーくんを殺すのが良いって思ったんだ」
「な……」
絶句。まさに、それ。トキくんも、そんな顔するんだなぁ。
「そうすれば、なーくんがわたしを殺す……ことも出来ないし、過去に苦しむことも出来ないし…ね?これが、一番最適だと思ったんだけど……」
「ふざけるな!」
トキくんは、短剣を構える。わたしはその顔に、怒り以外のなにかを見る。………なんだろう、でも、なにがあったかは想像できた。彼も、わたしが不死であることを知ったに違いない。ボスさんの仕業だろうな。きっと、ちょっと意地悪なばらし方をしたのだろう。
「……トキくんごめんね、君の好きな人、殺しちゃって」
「…ふざけるなと言ったのが聞こえなかったか?」
「ふざけてないよ。ほんとだよ?」
あーあ、トキくんとなーくんが結ばれるところ、見てみたかったなぁ。トキくんのストーカー精神、とっても楽しかった。トキくんがわたしをまともに扱わない理由の一つは、わたしがなーくんの彼女でありながら、トキくんの行動を楽しんでいるというところにあるだろうなぁ、と思っていた。というか、たぶんそうだろう。他の理由があるとしたら、たんにわたしがうるさいのだろう。
「おまえは……、…その人を、恨んでいるのか?」
あは。この状況下でも好きな人の名前を口に出来ないトキくんが、とても可愛らしかった。そして、馬鹿な質問だった。
「まさか!そんなはずないよ。そんな資格ないよ。レウちゃん実験において、一番苦しんでいたのはなーくんだよ?わたしはなにも知らなかったんだよ?……わたしはね、トキくん。本当に、これがなーくんのためだと思ってやった。ひとつはさっき言ったけど、この世から魂も心もいなくなれば、もう苦しむことなんてない。もうひとつはね、」
わたしは、まるでここがなにかの舞台みたく。わたしが、まるでどこかの役者みたく。両手を大きく広げて、トキくんに笑ってみせる。

「なーくんがわたしを殺したように、わたしもなーくんを殺せば、なーくんが感じた苦しさを感じることができる!」

割と、こっちが本命だったりする。
だってそう、不公平じゃないか。なーくんが感じた苦しさを、わたしが知らないなんて。そんなの、なーくんだけが不幸じゃないか。なーくんが不幸であるならば、わたしも不幸になるよ。事実、わたしはいまとても苦しい。笑ってはいるが、さっきから心臓がバクバクと煩い。ポロポロと出てくる涙を止められない。すらすらと喋れるのに、なぜか呼吸がうまく出来ない………あ、もしかして、不死だから呼吸とかしなくても、普通にしてられるのかな?そういうどうでもよいことを考える頭の端っこでは、怖がりなわたしが震えている。どうしようどうしようごめんなさいなーくんどうしようどうしたらいいトキくんごめんなさいどうしよう……。でも、そんなわたしはわたしのほんの一部でしかないから、相手にしない。とにかく、いまは笑いたい気分だった。とても苦しいのに、悲しいのに、笑いたい。それに、これからどうする?の答えは既に出ている。なーくんの体を弾丸が貫き、赤い血が飛んだとき、わたしは決めた。

「トキくん、聞いて!」
明るい声を出す。涙はまだ止まらない。口元を釣り上げて、笑う。もう、どうにでもなれ。

「わたし、全世界を壊すことにしたんだ!」

だって、きっと、とっくに全てが狂ってた。