10

病室の隅っこで、わたしは白い不死を睨む。
「なんで……、あなた、どうやって……」
裁判所の〝庭〟は、それなりのセキュリティーがあるはずだ。
「セキュリティーなら、壊したりもしましたが、幾つかは当たりました」
「っ!」
新たな声が聞こえたと思ったら、白い不死の後ろから、小さな黒髪少年がひょっこりと顔を出した。
「なので、何回か死んで来ました」
「し、死んで……」
黒髪少年は、にこりと笑う。この人も不死なの……!?
「あ、あの、警戒しないで下さい。別に、襲いに来たんじゃないんで。」
「……はぁ?」
いま、わたしの手元には武器がない。あったらいじって休養にならないから、となーくんに募集されたばかりであった。なーくんばかあ!!
「…、さい」
白い不死が、急に口を開く。声が聞き取れない。眉をひそめる。
「……?」
「ご、め……ん、なさ、い」
謝罪された。不死に。なにに対して?!わたしの混乱を知ってか知らずか、黒髪不死が笑みを絶やさずに間に入る。
「こないだ、あなたを襲ったことです。」
「え、あ……え?」
わたしが言うのもあれだけど、あなたは不死なのだから裁判所を襲うのは道理に合っているのでは?
「いやぁ、僕からも謝ります。ほんと、ごめんなさい。ぼくら不死なんですがね、裁判所だけ、唯一僕らを殺すことができる力をもってて。裁判所には隙を見せることが出来ないんですよ。とくに、リアは初めて会う人には大抵警戒をもって、裁判所だと判断できたらすぐに攻撃しちゃうから。ま、それが僕らの中では正しい判断なのですが。時折リアは判断を早まるんです。」
わたしの気持ちを他所に、黒髪不死はペラペラと喋り出した。……リア、とはこの白い不死のこと…だよね?
いや、そんなことよりも、早く助けを呼ばなくては。ナースコール?いや、不死たちを挟んだ向こう側にある。ドアと窓も同じく。いまわたしは衣服以外はなにも見につけていない。……だめだ、なにも術はない。
……得意ではないが、体術ではいけるか?……それもむりだ。あの白い不死1人と戦ってわたしは負けた。プラス黒髪不死で、たとえ彼が弱かったとしても勝ち目はない。襲う気はないと言ったが、果たしてそれは信じてもよいのか………。
なーくん……テレパシーでもなんでもいいから、察して来てっ。
「で、なんであなたに会いに来たかと言うとですね、」
「……あ。」
そう、それだ。それもあった。裁判所は殺さなくちゃいけないはずなのに、わたしは生きてるし、また会いに来て襲う気は無いと言う。
……は!
「ひ、人質にするつもり!?」
「え?あぁ、まぁ、そう考えるのも無理は無いと思いま、」
黒髪不死が言い終わる前に、わたしは地を蹴って黒髪不死との距離を縮める。白い不死よりも、黒髪不死が前にいてくれて助かった。
「なっー」
どすっと、黒髪不死の腹に蹴りを入れる。病室は狭い。強く蹴った勢いで壁にぶつかり、黒髪不死が倒れこみ行動不可能になったのを視界の端で確認し、すぐに白い不死の方を向く。白い不死はすでに動き始めていた。全身で突っ込んでくる。それをわたしはギリギリで避けて、ベットに置いてあった時計を白い不死目掛けて投げる。白い不死はそれを手で弾く。多少の攻撃になればと思ったが、やはり無駄だった。
ここは、逃げるのが妥当だ。ドアノブに手をかける。
「ま、て……」
「……!」
首に、ひんやりとした感触。……ナイフ、だろう。
「な、んで、に……げる?」
「……、人質になるわけにはいかないからに決まってるじゃん!」
かつて、一回だけあった。みんなに迷惑を掛けたのだ。あれを繰り返すわけにはいかないのだ。ごめんね、と、悪くも無いなーくんを謝らせるわけにはいかないのだ。守られてばかりじゃいられない。
「なーくんを守る為には、わたしを守らなくちゃいけないの!」
守らなくちゃいけない。なーくんは、わたしの彼氏くんだもんね!

「世界機関、裁判所メンバー、No.4レウ!あなたたちを、捕らえてやる!!」