08
「……ボスさんが、なにかしたっていうの?」
「そこまで言ってない、ただ、タイミングが良すぎて気持ち悪いといっただけだ」
「……それは、」
確かに、そうだけれども。でも、もし仮にボスさんが、意図的にわたしに不死の存在を見せたとして……。
だから、なにがあるっていうんだ?
「……ま、ボスを変に探るのは、信頼に反する行為だ。ただの引っ掛かりだ。もう考えない」
「……でも、トキくん。トキくんが長々と話すのは、結構重要な話の時だけだよね?」
「……さっきまでは、だ。いまはもうどうでもいい。じゃあな」
えっちょ、と止める隙もなく、さっさとトキくんは部屋から出て行ってしまった。久々に、トキくんが沢山喋るところを見た気がする。前に見たのは……いつだったけなぁ?
ぼんやり考えながら、ぺらっと服をめくると、なるほど、腹に10センチほどの傷が残っている……おおう痛々しい……。
「…………不死、」
目を閉じて、あの少女を思い出す。
赤が飛ぶ光景。白い少女。
そう、やっぱり、あの子は綺麗と称するに値するのだろう。
いきなくちゃ。
そう、確かにそういったあの少女は。不死という、理から外れた者は。一体、なんなんだろう。
ボスさんは、一体、不死についてどんな情報を持っているのだろう。
不死についてわたしに話して、そのあとわたしは不死に会った。それがボスさんが、わたしが不死に会うことを予想してのことだとしたら。ボスさんのやりたかったこととは…一体、何だろう。
「まぁ、ある意味では、予想はしていたんだけどね?」
「むぐ…」
ボスさんのお見舞いのりんごを丸齧りしていたところで、ボスさんはあっさりと白状した。
「いやぁね、最近、不死らの動きが怪しくて。このままだと、近いうち俺と尚だけでは対処しきれなくなると思ってね」
「むぐ…」
「レウとトキにも、不死の仕事に関わらせようと思って、こないだ話したんだ。けど、まさかあとあとすぐとは流石に思わなくてちょっと焦った。不死かなぁとは思ったんだけど、話すより見るほうがいいと思っ
てさ、行ってもらったんだけど…」
話を聞きながら、わたしはもぐもぐとりんごを食べ続ける。しゅわっとした果汁が、乾いた喉にきくのだ。
「その少女、容姿はどんなかんじ?連れとかいた?」
「むぎゅ……う、ごくん、ん。連れはいなかったよ。容姿はね、白くて長い髪でー、目が赤くてー、そういや、服までちゃんと注目してなかったかな。ワンピースだった気がする。」
ボスさんは、目を細めて頭を掻いた。
「……まさか、本命がくるとはねぇ…………」
「…本命?」
ボスさんは、持ってきていたパソコンを開いて、なにやらカタカタと打ったあと、こちらに画面を見せた。
「……あ、」
そこには、確かに、あの少女が写っていた。とある世界だろうか、人混みの中で、少女は一人突っ立っていた。目はしっかりとこちらに向いていた。
「もう長年追ってる、不死の中でも最悪な部類に入るものだ。これは、世界の成り立ちについて、どこからかわからないけど知識を得ている。……世界渡りをするよ、これは」
「た、単独の世界渡りを……!?」
世界機関の人員でも数少ない、媒介なしでの世界渡り。時空に入るわけだから、なにが起こるかわからないそこに身ひとつではいるなど………、あ。
「まさか、それも、不死だから影響ないってこと?」
「死にはしないってだけだね。支障はいくらか出るらしい。これもね、俺が追い始めてたときは、髪と目の色が違ってた。」
ボスさんの、写真の少女を見る鋭い目つきにぞっと寒気を覚える。
「……あの、この子さ、なんか、裁判所は問答無用で殺そうしてるみたいなんだけど……?」
裁判所だから。そういった後、あの少女はこちらを確実に殺す気できていた。
「裁判所は、問答無用で不死を罰するからね。殺られる前に殺るていう程だよ。……これは、各世界の不死にも手を貸したりして、俺らの裁判の邪魔をしている。そして、強い。だから、本命ってこと。」
「……ボスさ、ぎゃっ」
ぽんっと手を頭の上に乗せられ、乱暴にぐりぐりと撫でれる。で、でた!子ども扱い……!
「やめれぇぇえいい~!」
「あははー、レウはかわいーねー」
「うぇ、ほんと?やったー」
手を払いながら、わたしは誉め言葉だけ頂戴してできるだけボスさんから距離を取る。わたしを撫でていいのはなーくんだけだもん!トキくんもいいけどトキくん絶対しないもん!!ぐぬぬと威嚇していると、ボスさんはにこにこわらっていた。しかし、ふ、と急に悲しそうな目をして、静かに口を開いた。
「ごめんね、レウ。危ない目に遭わせた。」
「……、ぅ、え」
ボスさんは。
「、ん、平気だもん……平気!わたし強いから!こんなの、すぐによくなるもん!」
「……そっか。暫くは、ちゃんと休暇をとってね、レウ。」
ボスさんは、ふざけているようで、とても真剣な人で、そして、仲間思いなのだ。よく知っている。わたしがこの裁判所に来てから、いままで。ボスさんは、仲間を心配して、仲間のために動く人。
「うん。……ボスさん、わたし大丈夫だから、ボスさんはボスさんのやることをやらなくちゃ。ね!」
こうして、怪我したわたしの見舞いに来てくれるのは何回めだろうか。昔は結構ヘマしてたからなぁ。
「……ありがとう、レウ。じゃあ、またね」
へら、といつも通り、けれど、やっぱ少し悲しそうに笑うボスさん。
手を振って、ボスさんを見送る。
ボスさんは仲間思い。故に。
敵には絶大なる殺意を向ける。
彼は、あの不死の少女を、〝これ〟と言った。
不死は生きている。
でも、果たしてそれは。
人としてか、化け物としてか。