06

手加減はしたから、死んでるはずはないのだけれども。
目を閉じている少女を見ながら、頭の片隅で考える。
……きれ……い?
それが果たして、綺麗という単語に当てはまるのかはわからなかった。ゆらゆらと、宙ぶらりんな少女の足は揺れる。ふわっと、とても長い白髪が漂い、あたりが少しだけ明るくなるような錯覚を覚える。

少女の目が開いた。

赤い目。

「っ」
気を抜かない、わかってる。
さて、この、謎の生命体の最初の一言はーーーー、

「ー、」

「おなか、すい、た」

パァンッと、少女を捕らえていた糸全てが切られる。
「えっ……!?」
少女は片手に小型ナイフを持っていた。あれだけで。
「あれで、わたしの糸が負けたーー?!」
やっぱり只者じゃあない!
てかなにいまの一言……?!
地面に静かに降り立った少女は、赤い目でわたしを見つめた。
「さいば、んしょの、ひと」
「……!」
これも驚愕。わたしたちのー世界機関の存在ーを知っている、それは、幾つもある世界の中の、ありとあらゆる生命体のなかの1割にも満たさない、とボスさんから教わっていた。
その1割未満が、いま、目の前にいる。これ、かなりやばめだよ……?
「なん、で、ここに、きた、の?」
「……そ、それは……あなたが原因なんだけど……」
「わたし……わたしを、おって、き、たの?」
……追って?
「え、なに、あなた元から狙われてたってこと?」
少女は、ぱちぱちと目を瞬き、かくんと首を傾げた。………ぐ、か、かわいい…………まてまて、なんか緊張感なくなってきたんですけど!
「なんも、しらない……」
「…え、それ、わたしのこと?あなたのこと……?」
「でも、さ、いばん、しょ、だから……」

「いきなくちゃ」

え、と声を漏らすと同時に、少女は目の前にいた。少女の赤い瞳のなかにうつる、わたしが見えた。
……は、や……!?
「ぐっ」
ひゅんっと振られたナイフを避け、地を蹴って距離をとる。指を動かし、糸を操る。ぴん、と張られた糸は少女の足を狙う。
かくん、と少女は傾く。が、少女は倒れかけた身体を、地を蹴って高くジャンプし、くるりと回り着地させた。すべての動きがはやい。そして、ナイフはまたわたしを狙いに来る。
ーもしものときは、
ボスさんの声を思い出した。いつもふざけたことをしふざけた言葉を吐きわたしと一緒になかよくどうしようもない会話をするボスさんの、数少ない真剣な声。
ー殺しても、構わない。
手加減したら、死ぬ?
ぐいっと糸を思いっきり引っ張り、わたしは逃げるのを止める。
「裁判所、裁判員レウ」

「処刑、強制執行!」


《虚偽》発動。

ずしゃあっと、なにかを切り裂く音。赤い色。視界のなかで、白が赤に変わる。力の無くした手から落ちたナイフが、からん、と地に落ちる頃には。
あたりは全てが赤だった。
「ー、はあ、……はぁ……」
自身の身体能力に、力を上乗せして使える、裁判員特殊能力、強制執行。使うのには体力も必要だし、なにより暴走の危険があるこの力は、わたしもまだ片手で数えられる程度にしか使ったことがなかった。糸を強く引っ張りすぎたために、指から少し血が垂れていた。
「はぁ、…はぁ…………トキ、くん、呼ばなくちゃ……」
散らばった元少女をみて、吐き気がした。自身の行った処刑に、こんな胸をざわつかせるなんて、なぁ。
立ち上がらなくちゃ。いつの間にか座り込んでいた自分に言い聞かせ、ゆっくりと立ち上がる。

赤が飛んだ。

え?

赤が、集まっていた。
ぐるぐると渦巻くそれは、集まっているそれは、元少女のパーツたちで、

赤から、白が生まれた。

「ー、おは、よう、せかい」

頭の片隅に、不死という言葉を浮かばせて、

「お、やす、み」

暗転。