愛だけチョコレート

 わたしがたくさん溶かしてかためたチョコレートを萌ちゃんは微妙な顔をしながらもきちんとたべてくれた。
 またしても失敗してしまっただろうかとちょっとだけ不安だったのだけれど、どうやらそれは杞憂だったらしい。やはりたくさんぶちこんだもろもろがうまい具合な味をつくってくれたのだろうか。
 おいしいよ、とこたえる萌ちゃんの目尻にはなぜかうすく膜が張っていたし顔色もわるくなっていたのだけど、わたしは気にすることもなくにっこりわらって萌ちゃんに抱きついた。萌ちゃんのからだはなんというか、うすい。うすくて、けれどなかみが詰まっているかんじがする。後ろから抱きつくと肩甲骨が出っ張っているのがわかるし、適度なやわらかさの腹とくびれた腰がすこしだけうらやましい。
 ぎゅうと回した腕にちからをこめると、「いたい」と眉根を寄せて文句をいう。ごめんね、とわたしはちからをゆるめた。
 椅子に座る萌ちゃんに抱きついたままゆらゆらしていると、ふと世紫と目が合った。あきらかに顔をひきつらせた彼にわらいかけて、片手だけを萌ちゃんから剥がして足元にあったかばんのなかからてきとうにラッピングしたそれを引き抜いた。

「あげる」
「いや、皐月ちゃ、俺あまいものあんますきじゃないっていうか……」
「世紫くんこのまえファミレスでひとりでチョコレートパフェうれしそうにたべてたよね」
「げっ」
「あげる。どうせ義理チョコたくさんもらってるんでしょう、ひとつふえたところで関係ないわ。ほら」
「いや、あの……」

 なぜだかなかなか受け取ろうとしない。しかもなぜか救いを求めるように萌ちゃんをちらちらみる世紫。心臓の端が焦げる。せっかくわたしがチョコレートをあげるというのになんだこのひと。ていうかなんでわたしの萌ちゃんにそんなに視線をやっているの。むかむかする。
 わたしが世紫に投げつけるためのものを机の上から吟味しはじめたときである。

「さっちゃん」
「? なあに、萌ちゃん」
「世紫はさっちゃんの義理チョコじゃ満足出来ないんだって」

 萌ちゃんは興味なさそうにそう言った。世紫が「はあ!?」と声をあげる。わたしは首をかしげる。わたしの義理チョコじゃ我慢できない? どういうことだ。しばらく考えて、わたしの頭の電球に光が灯る。

「わかった、そっか世紫くんがわたしのことそんなふうにおもってたなんて知らなかったわ。まあわたしもてちゃうもんね」
「果てしなく誤解が生まれている! 誰がおまえみたいなヤンデレメンヘラ好きになるか! お断りだ恋は盲目おんな!!!」
「わあ素直じゃないんだから。まったくもう、自分ももててるからってそういう態度はどうかとおもうわ世紫くん」
「自信満々だなこのおんな…!! 常識逸脱者のくせに!!」
「でもごめんねわたし生涯を捧げるのは萌ちゃんってきめてるの。生憎だけど世紫くんじゃあその決意はぜったい揺るがせないわ、うんぜったい」

 もてもてらしい世紫の安いプライドはわたしの挑発でいともたやすく粉々になったよう。笑顔をひきつらせながらやたらとめんへらだのやんでれだの連呼してくる。こうなるともう学年1のいけめん(笑)の面影はない。わたしはべえと舌を出す。猫かぶりはおたがいさまである。

「くだらない喧嘩はそのへんにしておきなよ。……さっちゃん、残りは帰ってからいただくことにするから。ありがと」
「ううん、わたしもつくっててすごくたのしかったから……! 愛とからぶとかその他にもまあ目に見えるものとかもたくさん詰めてるから、味わってたべてほしいなあ……」

 ぎゅうと腕のちからを強めてそういうと、半眼になった世紫が「ハッ」と鼻で笑ったので、まだ持ったままだった箱を投げました。おつかれさま。